【創作】汝は人狼なりや?【NL】
異形の固まりは、まるで溶けるように消えていく。
あちこちで人々のうめき声やすすり泣きが聞こえる中、誰かの声が響いた。
「狼憑きだ・・・・・・! 狼憑きが現れた・・・・・・!」
呆然と座り込んでいた人々も、混乱の中に見た巨大狼の姿を思い出し、声を上げる。
「そうだ狼憑きだ! 狼憑きがやったんだ!!」
「狼憑きのせいだ!! 全部あいつのせいだ!!」
「殺せ!! 狼憑きを殺せ!!」
「研屋の男だ!! あいつが・・・・・・!!」
場は騒然となるが、そこには狼も、変身した男の姿もなかった。
ディルは、混乱の収まらないうちにと、家に逃げ帰っていた。
ローズは、領主夫妻と引き合わせてある。怪我はしていたが、二人とも命に関わるほどではなかった。
もう、俺の出番は終わりだ。
我に返った村人達は、狼憑きを探し始めるだろう。もしかしたら、この騒動自体の責任を押しつけられるかもしれない。その前に、村を出なくては。
「よし、大体詰め終わったな」
汚れの目立つ袋一つに、必要な物を放り込んで肩に担ぐ。その時、閉めた引き出しに挟まている守り袋が目に入った。
「アスター・・・・・・」
それは、村に流れ着いたばかりの頃、アスターから「お近づきの印に」と渡されたもの。ディルは守り袋を手に取ると、胸の前で聖印を切る。
「神よ、彼の魂をお救いください」
守り袋にキスをして、引き出しの中に戻した。
彼の友情が、全て偽りだとは思いたくない。だからこそ、置いていくのだ。孤独に戻る為に。
「さようなら」
扉のところで振り向き、ディルは呟いた。
作品名:【創作】汝は人狼なりや?【NL】 作家名:シャオ