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【創作】汝は人狼なりや?【NL】

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目の前で、人が狼に変身する姿を目の当たりにして、ローズは恐怖を忘れて見入る。

なんて綺麗なの・・・・・・!

黒みがかった灰色の毛に覆われた体躯は、流れるような曲線を描いていた。一度の跳躍で異形達に覆い被さった狼は、鋭い牙と爪で固まりを引き裂いていく。

「狼憑きだ! 狼憑きが出たぞーーーーー!!」

その叫びに、周囲は混迷の度合いを深めた。我に返ったローズが、逃げ道を探そうとしたその時、背後から抱き締められた。

「ひっ!」
「こっちにおいで、ローズ。ここは危ないよ?」

振り仰げば、そこにはいつものアスターがいる。いつものように愛想良く笑った顔が。

「僕の側にいればいい。護符があるからね、襲われたりしないよ」
「離して! アスター、貴方、何だってこんなこと!」
「僕はアスターではないよ、ローズ。もう忘れてしまったのかい? ああ、顔を変えたから、分からないかな」

無理矢理体の向きを変えられ、ローズはアスターを正面から見つめた。

「君は変わらないね・・・・・・あの頃から美しかった。彼女は、いつも君の真似をしていたよ。覚えているかい? 三人で一緒に野イチゴを摘みに行ったのを?」

ローズの顔から、すっと血の気が引く。
思い出したのだ。幼い頃、いつも一緒だった少年と少女のことを。
彼らとは進路が分かれ、自然と疎遠になり、いつしか思い出さなくなっていった・・・・・・

「貴方・・・・・・まさか・・・・・・それじゃあ・・・・・・」
「思い出してくれたかい? 光栄だね。彼女もきっと喜んでいるよ。今日が命日なんだ。十年前、狼憑きとして処刑された彼女と、その両親の」

アスターは首を傾げ、穏やかな目でローズを見つめる。

「君の両親と、村人達の手で処刑された。首に縄を掛けられ、腹を裂かれて石を」
「やめて!」

目を閉じて顔を背けたローズの耳元で、アスターの囁く声が聞こえた。

「ローズ、目を開けて・・・・・・ほら、ディルが一人で戦ってる。村人達は彼を恐れ、警官から銃を向けられているのに」

ローズは、ハッとして顔を上げた。混乱の中、狼の巨大な体が宙に舞う。異形の固まりをくわえ、振り回し、一人でも多く助けようとしているのに、彼に向けられる視線は恐怖と憎しみに満ちている。

ディル・・・・・・!

ローズは涙を浮かべながら、アスターを睨みつけた。

「どうしてこんな・・・・・・! 憎いなら、私を殺せばいいでしょう! 彼のことまで巻き込んで!」
「復讐の刃が、常に本人に降り下ろされるとは限らないんだよ、ローズ。それに、ずるいじゃないか・・・・・・なんで彼は処刑されないんだ? 同じ狼憑きなのに? なんであいつは、のうのうと生きてるんだ? 許さない・・・・・・地獄に落ちればいい・・・・・・彼女と同じ苦しみを味わえばいい・・・・・・」
「ディルは関係ないでしょう!? 彼も苦しんでるのに!!」
「あるさ!! あいつは狼憑きなんだ!! 処刑されるべきなんだ!! 彼女のように!!」

アスターはぐいっと顔を近づけてくると、唇の端を持ち上げて笑う。

「あいつがのこのこ来てくれた時は笑ったよ。どうやったら足止めできるか、悩んでいたところさ。警察は良くやってくれた。街道を封鎖して、村人達を閉じこめて。お礼に犬を吊してやったのさ。『狼憑きなどいない、狂人の仕業だ』なんて・・・・・・彼女は、彼女は狂人などではない!」

怒りの燃えた視線が、ローズを射抜いた。もがいても、がっちりと両腕を掴まれて、逃げ出すことが出来ない。

「この村は狼憑きに襲われた・・・・・・村人達は狼憑きに殺された・・・・・・噂はすぐに広まるだろう。さて、彼はいつまで逃げきれるかな?」
「この悪魔! 貴方こそ、地獄に落ちればいい!!」
「そう、僕は地獄に落ちるだろうね。でも、君はきっと天国にいけるよ。彼女のいる天国に」

アスターの手が、ローズの首を掴んだ。振り解こうと暴れても、万力のように締め付けてくる。

「彼女はきっと寂しがってる・・・・・・君が遊び相手になってくれ。君の魂に救いを。さようなら、ローズ」

更に力を込められ、ローズが意識を失いかけた瞬間、突然の衝撃に弾き飛ばされた。驚いて目を開けると、狼がアスターと揉み合っているのが見える。アスターが身につけていたアクセサリーは引きちぎられ、周囲に散らばっていた。

「ディル!」

ローズの叫びに、狼は素早く体の向きを変えると、彼女の上に覆い被さってくる。重さと温もりと獣の臭いに包まれて、ローズは固く目を閉じた。
アスターの叫び声が、厚い毛皮を通して耳に届く。

神様・・・・・・!

ローズはただ、祈ることしかできなかった。