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【創作】汝は人狼なりや?【NL】

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夕飯の支度を終える頃、アスターとローズが食堂に現れた。

「やあ、ローズ。よく眠れたかい?」
「ええ、お陰様で。頂いた薬が良く効いたから」
「それは良かった。明日は朝早いからね。寝不足にでもなられたら大変だ」

アスターの言葉にディルは驚いて、「明日は、朝早いのか?」と聞き返す。

「てっきり夜だと思っていた」

アスターは両手を広げて肩を竦めた。

「僕もだよ。けれど、警察の横槍が入ってね。暗闇に乗じて真犯人が逃げやしないか、心配してるのさ。まあ、準備は終わっているから、朝でも深夜でもお好きにどうぞというところだ。満月を背にした方が、儀式の神秘性も増すのだが、仕方ないね」
「早く終わってくれたほうが、ありがたいわ」

ローズの言葉に、アスターは大仰な身振りで腰を曲げ、

「仰せの通りに、女王様」

ローズがくすくすと笑い、ディルも苦笑する。アスターは身を起こして、にやっと笑った。

「君達は大船に乗ったつもりでいたまえ。明日は僕の晴れ舞台だ。準備は万端、後は当日のお楽しみさ」

相変わらずの軽口に、ディルは苦笑しながらも、アスターの言うとおりだと考える。
明日になれば、ローズの潔白は証明され、事件は解決するだろう。何もかも、友人に任せておけばいいのだ。

「馬鹿なことを言ってると、冷めてしまうぞ」
「それは大変だ。味が落ちてしまった分は、責任を持って僕が片づけてあげよう」
「あら、独り占めはさせなくてよ」

三人とも、我先にと席に着く。
何も心配しなくていいのだ。何もかも、明日になれば解決するのだから。



夕飯の後、洗い物を片づけていたら、ローズに声を掛けられた。

「お邪魔かしら?」
「いえ・・・・・・どうしました? 眠れませんか?」

ディルは、手を拭きながら振り向く。
心持ちやつれた顔のローズを、そんな場合ではないと分かっていても、美しいと思った。

「薬湯をお持ちしましょうか? 明日は朝早いから」
「いいの、ありがとう。ただ、貴方とお話ししたくて」
「俺と?」

戸惑うディルの腕に、ローズの腕が絡みつく。彼女は身を寄せてくると、形の良い唇を開いて囁いた。

「貴方、『狼憑き』なのでしょう?」

ディルは驚きのあまり、ローズの腕を振り解こうとするが、相手は全力でしがみついてくる。

「黙っていて欲しい? 誰にも、アスターにも」
「あのっ、えっ、あっ、俺っ、はっ」
「明日、無事に済んだら、この村を出ていくつもりなのでしょう? 駄目、何処にも行かないで。私を置いていかないで」
「いやっ、あのっ、うわっ!」

体を引こうとして足を滑らせ、ディルは流しに後ろ手をついた。ローズがのし掛かるように身を寄せ、

「誰にも言わないから・・・・・・私を貴方の妻にして」

耳元で囁く声に、ディルは言葉を失う。

「お願い・・・・・・貴方がいなければ、私」

その時、ホールからアスターの呼ぶ声が響いた。

「おーい! ローズ! もう寝たのかい!?」

ローズは素早く身を翻すと、「ここにいるわ」と声を掛け、台所を出ていく。

「どうしたの?」
「いや、君に渡した薬、足りないんじゃないかと・・・・・・」

二人の声が徐々に遠くなっていくのを確認して、ディルはずるずると床に崩れ落ちた。

えっ・・・・・・いや・・・・・・え?

混乱する頭を抱え、一体何がどうなっているのかと煩悶する。



三者三様の思いを抱えながら、夜は更けていった。