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木曜日の夜

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「いや、事務所ではそんな話しないじゃないですか、車も昔の車を大事に乗っているし若い頃どんな青春だったのだろうとふと思うことがあって」
スーツ姿でネクタイをピシッと締めた山田は20代後半の青年らしく明るい表情で私に聞く。
「俺か?俺は結構硬派で群れを嫌っていて、流行にも興味なくてな。当時興味があったのは自然と人の作った造作物、車と建築、それに職人の作るものに強い興味があった」
山田を見て答えるとその目を正面にあるボトルの並んだ棚に目をやった。
「へえ、硬派だったんだ。今では考えられないですね」
「どうして?今でもそうだと思うけど」
「いやそんな事無いですよ、部下にも気さくに話するし私たちも話しやすいし、それにバレンタインには女性にきちんとチョコ買ってくるマメなことろもありますし」
「ああ、あれはうちの嫁さんが気を利かせてなんだよ。俺はバレンタインなんか興味ないが嫁さんが女子社員も大事にしろってな」
私は氷で程よく冷えた琥珀色のスコッチをまた一口飲むと、小皿に盛られた胡桃をひとつ口へ放り込む。
「へえ、奥さんのアドバイスですか。幾ら硬派でもその奥さんだけと付き合ったわけじゃないですよね。やっぱり浮いた話もあったんでしょう?」
山田のグラスは半分ほどに減ってはいる、もう酔いが回ったわけではないだろうが、変に明るく私の若いときのことを聞こうとする。
「ねえ先生の青春時代って、どんなんだったんですか?」
「どんなって?」
「付き合った相手、多いんじゃないかと思って。色々あったでしょう?」
「いや、私はどちらかというと、そんなに女性と付き合ったわけではなんだよ。でも思い出になった女性は何人かいるな」
「思い出?」
「ああ、女性としての思い出」
「何ですかその女性としての思い出って?」交際の女の子とは違う女性としての思い出という言葉に山田は興味を持ったようだ。
「付き合いとか交際とか肉体関係とか関係ないプラトニックな交際の話さ。もっともそこまでいく、そんな勇気も気持ちもまだ無かった頃ともいえるがな」
「そんな交際で思い出になるんですか?今の若い人では考えられないような話ですね。ちょっと聞かせて貰っていいですか?今後の参考に?」
「何の参考だよ?」
「いや・・・ほら何でも興味を持っていつでも勉強だって先生いつも言うじゃないですか。だから」
山田は私の話を聞こうと理由を述べることくらい私のも分かったが、丁度今頃のことがふと頭に浮自分でも懐かしくなり思い出話を一つすることにした。
「俺の話し聞いても参考になんかならないが、まあ話してやるよ。あれは私が21の時だったな。そう丁度今頃のことだ」
作品名:木曜日の夜 作家名:のすひろ