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ウエストテンプル
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ナイトメアトゥルー 3

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言い終えても工藤 ユキは自分の右胸を指差したまま、強い意志を秘めた瞳で俺をしっかりと見つめる。
その威風堂々とした態度にひるんでしまった。
俺を乗せている手の平の高さは丁度胸の位置にまで下がっている。
おかげで否が応にもツンと反り立ったピンク色の乳首が目線の先に来てしまう。

目のやり場に困る……。
だが新しい発見もあった。

通常時の大きさの時には気がつかなかったが、工藤 ユキの胸は砂場の山のようないくばくかの膨らみがあるのだ。
それは本当に申し訳ない程度に少し盛り上がっている程度ではあったが…。

(このサイズだから気がつくことができたのか…、第二次性徴前と言っても、やはりここは女の子だからか…。)

ここでようやく質問をできる程落ち着きを取り戻した。

「おい。ちょっと待ってくれ…。
お前のそこに俺の抜け殻があるのは大体理解できる。
そりゃ、昨日の{ナイトメア}ではそこで干からびて死んだんだろ?
でも、今の俺の大きさは18センチぐらいだ。
このままだったら入れないぜ。」
質問に工藤 ユキは即答する。
「今、言ったように、ここに入れるぐらいにまでもっと小さくなることだってできるの。
あなたにはそれができるからこそそう言ったのよ。
これが例え私が作りだした世界であっても今のその大きさを上限にあなたは体のサイズを変えられる。」

「え…。」

「試してみて。
昨日の{ナイトメア}であなたは私の胃の中で幽門を通過したいと考えていた。
その結果、あなたの気がつかないうちにどんどんと体のサイズは縮まり分子程度まで小さくなれた。」

「まじで…。あれは俺の願いであぁなっていたのか。」

とは言われても改めてだとやり方がわからない。
とりあえず念じてみる。

((もっと体を小さく。))

結果的にはそう念じるだけだった。
簡単だった。
容易にそれはなった。
肌色の足場がどんどんと広がっていき、工藤 ユキの手の平は肌色の大平原に変貌している。
俺の体はさらに小さくなり、眼前の工藤 ユキは果てしない巨大娘になっている。

なるほど、コツは掴んだ。

「さすがね、じゃあ、戻って。」
褒めの言葉は短くしているのはまだ言いたい事がある故だろう。
俺自身だって褒められる事に時間を費やしたくない。
すぐさま元の18センチへと戻る。
すると、工藤 ユキは、パチンと指を鳴らした。
乾いた音が響く。

「そして助手を用意した。」
「助手?」

「私は自我の弱い物だったら添い寝をしなくても私の世界に引き込むことができる。
繰り返すが今回は私があなたの{夢}に介入しているのでは無く、あなたが私の{夢}に介入させられているのだ。
それは私と添い寝をすることによって実現できた。」

「あぁ、だからこその添い寝だったのね。」

「そういう事。
そして、今から呼び出すのは肉体と魂が完全に別々の存在。
現実世界では肉体と言う牢獄に囚われてしまっているが、この世界では本来の姿となる。」

工藤 ユキが言い終わるかが先かのタイミングでその助手は現れた。

「ふぅわぁぁぁーーーあ…、っと。
んーーーー、あーあーあーあーあーあー。
やっとこさ出てこれたぁ…。
ご主人さ、こげな煮え切らな奴、喰い殺してしまえばええのに。」

助手は少女だった。
その少女はローブ姿で頭にはフードを深く被っている。
古今東西入り混じった方言とイントネーションではあるが、
それでも俺は目を離すことができなくなった。

美しい。
そう直感を得てしまったから目線を逸らすのも惜しい。
そう思わせるほどそれは美しかった。

フードから漏れている髪の毛は輝く小麦のようで栗毛や亜麻色と言うかブラウンに近い色。
茶髪と言ってしまえば一言だが、それは人工的な脱色では出せない色である。
その茶色い髪の毛は腰まで届いている。
風も吹いていないのにたなびくように揺れる様は、牧歌的な黄金色の大平原を想像させる。
そう、牧歌的で美しすぎるのだ。
人類が絵画上でしか獲得できないような美。
そんな美しさ。
だからこそ、この助手の少女は人間ではないことはすぐに連想ができてしまった。

「ほっほっほっほほぉーー。
のぉ、チビ人間、やっとこさこちの世界で会えたのぉ。
うちが誰かわかるかえ〜?」

………………………。

さっきはスルーしたけどやっぱスルーできない。
お前、どの時代とどの場所で生まれたんだよ!
方言とイントネーションを統一しろ!
見るからに頭が悪そうだ!
それでもそんなのを差し引きしたところで美しいけどね!!

そんな不毛な突っ込みを横に置いて、この美しさの権化と関連できそうな物事を思い出していく。

「……………。」
「おみゃ、こうすれば簡単になりんす。」

ローブ姿の少女はフードを外す。
その頭にはモサモサした犬耳が鎮座している。
犬娘!?
しかし手足の先まではきちんと人間のものだ。
だが、腰の辺りに見えるはモフモフとした尻尾。
犬娘確定。
やはり人間では無かった。
当然、俺には犬娘に知り合いはいない。
けれど、工藤 ユキの言葉がヒントとなる。
(肉体と言う牢獄)。
そしてこの外見。
茶色で犬。
ならばなるほど合点がいく。
この全体的に茶色なのは現実世界での姿を踏まえてなのか。

この人外で美しい犬耳娘の正体がわかった。
もちろん、あくまで仮定だけど。
「お前、まさかミリアか?」
少女はニヤリと笑った。
「ほほぅ、流石はご主人が一目置くだけあるよのぉ…。」
その回答で仮定が確定に変わった。

つまり、追浜の飼い犬、メスの豆柴ミリアが、犬耳と尻尾を携え18歳ぐらいの美少女の姿で登場したのだった。
なし崩し的な自己紹介が終わった所で工藤 ユキが口をはさむ。

「こいつはある人間の{ナイトメア}から私の{ナイトメア}に迷い込んできた。
ある意味で言うと{ナイトメア}の産物、つまり現実世界には実体の無い存在。
だからその魂だけのような不安定の存在の為、メスの柴犬の体にこれを吹き込んだ。
そして現実世界に縛れるよう、そのままミリアと言う名前の鎖を頂戴した。」

「て、事は追浜の家にいる犬のミリアとはまた別の存在とも言えるってわけだな。」

「そう。
でも、こいつの魂の容れ物にするためには柴犬のメスでなければならないという条件があったが、偶然にも追浜 叶絵の飼い犬が該当していた。」

工藤 ユキからの紹介が終わるとミリアは耳をピンと張りながら、いきり立ったような様子で会話の主導権を握ろうとする。

「あぁ、全く。
現実世界では肉体の方はお前に対して尻尾振ってるが、内心であるわらわはうぬを喰い殺したくてたまらん。」

鋭い犬歯を見せびらかすミリア。
だが尻尾は振れている。
………。
犬が尻尾振る時って…。
…。
そうか、犬って言語機能を身につけたところで嘘つけないんだなぁ。
だから、俺はこいつに喰われることは無い。
少し皮肉を込めた口調で工藤 ユキに質問する。
「こいつ、あまり俺に対して友好的では無いと思うのだが。」
「大丈夫。犬だから主人の命令は絶対だから。
まぁ、仮に猫だったら、呼び出した瞬間あなたを丸呑みしていたかも。」

猫、怖ぇ…。
よかった、ミリアが犬で。