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ウエストテンプル
ウエストテンプル
novelistID. 49383
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ナイトメアトゥルー 3

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{裏の行政組織}とは表に出せない案件を秘密裏に処理する行政機関のことで、非常識な力、{能力}たるものを持つ人員で構成されている。そして、私はその組織の一員でもある。
本来は対象であるあなたに近すぎず遠すぎずの立ち位置で観測すべき立場だった。
それにより{観測者}という肩書を名乗った。」

事務的とさえも感じる声色が質問をはさむ気持ちにさせる。

「いや…でも、実害が無いって、さっき、お前は寿命が縮むって言わなかったか?」
話を割り込んだ俺に対し、工藤 ユキは冷静な口調を崩さない。
「そこは後述する。」
短い言葉ではあるが制御力は大きい。
「わかった、話しやすい順序で話してくれ。」

工藤 ユキは軽く頷く。
「今までで確認された中である特定の夜に通常とは異なった睡眠をとる人間がいくつかケースとして挙げられていた。
そういった状態に陥った人間を見つけ出す方法はいくつかのパターンがあるが、状況によって保護する段階が変わる。」

「今までの俺は?」

「中学卒業までは本人・周りには実害が及ばないことはわかっていた。
しかし、高校入学後に大きな変化があった。」

「大きな変化?」
「{夢}の中で出てくる女性についてだ。」

「あぁ、そうか。それなら思い当たる節があるぞ。
まぁ、正直な話。
中学卒業までは、遠い存在だろうと近い存在だろうと俺が好きな女の子だったけど、
でも、高校入学後はお前も含め、そういった事を抜きにした身近な女の子達に変わったんだ。」

「……。そういった事を抜きにした…か。」

「ん?どうした?」
「いや、なんでもない」
ここは少し不機嫌そうな表情で歯切れが悪かったが、再び淡々と抑揚のない声で語り始める

「ここまで話をすれば、私が少し特殊な{能力}を持っていると言っても疑いはしないだろう。」

「まぁな。
俺も毎月、変な夢を見ているのだから多少ばかりの非化学的なことも信じざるを得ないな。」

「私の{能力}は他人の精神の世界に介入する{能力}。」

この言葉で俺が聞きたい事の5つ内の3つの事の回答を得られたと言ってもいい。
でも、また新たに聞きたい事が1つできてしまっている。
「なるほど。これで大体のこちらが聞きたい事はわかった。
でも、近すぎず遠すぎずって、俺がもし仙台の高校に進学していたらお前も仙台に来ていたのか」

「いや、私があなたの{観測者}となったのはたまたま私が進学する高校とあなたの高校が偶然にも一緒だったから。」

「ふーん、そうか…。
……。
なぁ、じゃあさぁ、聞くけど。
追浜と仲良くしてるのって、その{観測者}としての任務みたいのを遂行するためか?」

こみあげてくる怒気を押さえながら言った。
猛禽類のような眼で工藤 ユキを射抜く。
答えようによっては我を失う程キレるべきだと思った。

追浜 叶絵を利用し裏切る事、それは絶対に許さない。

「誤解しないでほしい…、追浜 叶絵は…。かなえは。」
グッと何かをこらえようとしている工藤 ユキ。

次の瞬間、工藤 ユキの白い頬を一粒の滴が流れた。

俺は後悔した。
この件はおそらく彼女が一番気にしていることだったのであろう。
(組織の目的のために偽りの友情を演じている。)
絶対にそのように思われて欲しく無かったのであろう。
一粒の涙に偽りは無い。
冷静に思い直してみれば、追浜が俺に話しかけてくる以前からこいつは追浜と仲が良かった。
不注意だ、不手際だ、不始末だ。
「私は…あたしは…かなえが好き。
…でも…でも…、組織のためにやらなくちゃ…いけないこともあって。」
止まらない嗚咽。
先程までの鉄面皮が嘘のようである。
水が張った器に小さな穴を開けたかのごとく工藤 ユキの涙腺がどんどんと崩壊していく。

この時、彼女はやっぱり年頃の女の子だったと痛感した。
そして彼女をこのように振舞わせている彼女が所属しているという{裏の行政組織}を憎く思った。
もちろん彼女に対し下衆な偏見を持った俺自身に腹が立った。

「わかった、俺が悪かった。
ただ、俺も追浜が裏切られることが辛くてな。
続きの話はまた後日にでも聞かせてくれ。」

だが、工藤 ユキは、肩を震わせながら首を横に振る。
「ううん。」
顔はもうすでに涙でくしゃくしゃになっている。
だが、舌足らずな滑舌で続ける。
「こんや…、こたえる。」
「は?なんで?」
「こんや…、あたしとそいねして…。」

ん?何をおっしゃいましたこの方?
(そいね)って(添い寝)ってことですか?

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
おまえと…添い寝…?」
「嫌?」
涙目でこちらを伺ってくる。
そんな目で見んな!!
「嫌とかそうじゃなくて、その…あの…おまえと一緒に寝るってことだろ?」
「うん。そうすればすべてがわかるから…。」
工藤 ユキは止めどなく溢れ出る涙を拭いながら言った。

「え…でも…。」

回答に窮する。
女の子と一緒に寝るなんて小学生の時に追浜の家に行った時以来である。

頭の中はパニックを引き起こし、ここから言うべき言葉を探っても中々上手い言葉が見つからない。
ただ、工藤 ユキはもうすでに泣き止んでいる。
彼女は泣き止むなり直ちにクールなポーカーフェイスな表情に戻っていた。

ものすごい変わり身の速さだ。
もしかして、こいつは実は双子で一瞬の内に入れ替わったんじゃないかと思うほどだ。
「では、今夜、私の家に来てくれ。」
こちらの意向を完全に無視した強制イエスである。
これが成立するのはRPGの世界だけだと思ったんだが…。

喫茶店ではそれ以上に踏みこんだ話はできなかった。
結局、何故、俺があのような{夢}を見るのか。
そして、何故、その{夢}の中で死ぬと寿命が縮むのかという話の核心はその場では得ることができなかった。

しかし、その疑問を全て解釈させる方法が工藤 ユキと添い寝をすることらしい。







日が沈み、今いるのは工藤 ユキが住んでいる家だ。
工藤 ユキの家は都心にある高級マンションの30階だった。
ホテルでもないのに一階の玄関に受付嬢がいることにも驚いたが、まず圧巻だったのが窓から見える景色だった。
都心の景色を一望できてしまう。

「こんな所に1人で住んでるの?」
女子高生の1人暮らしにしてはセキリュティが行き渡りすぎである。
「いや、私の両親は仕事の都合でほぼ家にはいない。
ただそれだけのこと。」
淡々として口調で答える工藤 ユキ。
「では、私はシャワーを浴びてくる。そこの部屋で待っていてくれ。」
と、15畳はあろうリビングを指差した。

喫茶店で泣き崩れた時とは全くの別人である。
だが、あの時の彼女こそが本来の彼女の姿である事は確信が持てる。

あんな風に普通の女の子のように泣く事さえも許さず、彼女をここまで鉄面皮に演技させる{裏の行政組織}とは一体何なのか?
また新たな疑問が生じた。
そして疑問と共に湧き上がる怒りと不信感。

工藤 ユキに対しここまでやらせる非道さと秘密裏に今まで俺の生活を監視してきた理不尽さ、彼女を裏で糸を引いている奴と会ったらおそらく殴りかかってしまうだろう。

行き場の無い怒りを押さえ、ふぅと溜息をつきながら窓の外を見る。