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ウエストテンプル
ウエストテンプル
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ナイトメアトゥルー 3

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入学して数か月の付き合いだけども、あいつは見た目こそは小学生だが中身は完全無欠であり絶対にミスなぞ犯さない完璧主義者であることはわかっている。

それだからこそ、現実の世界で何かをやらかすことも想像できない。
じゃあ、なんで朝っぱらからあんなメールを。
寝汗を流すシャワーを浴びてもその疑問は流れていかなかった。
シャワーの水流で口をゆすぐ。
喉の渇きは不快であったが、具体的な痛みを感じなかったので先月、先々月のような全身の倦怠感は感じなかった。
それと、今日は土曜日で授業が半分しか無いことも少しばかりか心を慰めた。

シャワーの活栓を回し冷水で体を引き締める。
よし、とりあえず、学校に行って真相を確かめるか。




学校終わりに工藤 ユキから聞いた一言は俺を一気に奈落の底へと突き落した。
あまりにも衝撃的すぎてその前後の記憶が抜けおちる程だった。

その一言とは、
「満月の日に見る悪夢の中で死ぬと寿命が10年縮まる。」
と、簡潔に言われた事だった。

「…おい。嘘だろ………。」
工藤 ユキの口から発せられた衝撃的な一言は、全身を鈍器で打ちのめされた感覚にさせた。
それと同時にグラスの中の氷がカランと音を立てる。
レモンスカッシュの炭酸はすでに抜けきっているようだった。

満月の夜の翌日である土曜日の放課後、工藤 ユキに駅前の喫茶店に呼び出されていた。

「だからこそ朝のメール。
本当に申し訳ないことをした、私は{観測者}でいるつもりだったのに。」

工藤 ユキはホットコーヒーに砂糖を混ぜながら淡々とした口調で話した。
混ぜ終わるなりコーヒーカップの淵を口に運ぶ。
いささか苦かったのか渋い表情を見せ、一旦、口をつけたカップを受け皿に置く。

妙な沈黙が場を支配する。
6月の中途半端な気候に対応しきれていない空調が妙に背中を冷やす。

本来は会話が弾むはずの場である喫茶店が静粛な裁判所のようだった。
これが裁判であるならばいきなりの判決を下してから開廷を宣言するようなものである。

したがって、受けた衝撃の大きさは異議申し立ての文面を考える余裕すらなかった。

「え…、つまり…。
寿命が縮むってことは…
…。
死?
死ぬの?
俺、死んじゃうの!?
どうなんだよ!工藤!」

つい、いきり立ってしまいテーブル越しの工藤 ユキに詰め寄りそうになる。
しかし、工藤 ユキは全くそれに動じる素振りを見せない。
コーヒーカップのソーサーに手を置くと一度すぅと軽く息を吐きだした。
そして、
「大丈夫。あなたは死なない。私が守るから。」
と、幼い見た目からは全く想像できない冷静さと沈着さを兼ね備えた声調で言った。

頼もしさまで感じるようなクールさである。

こいつほど見た目と中身にギャップのある人間はいない。
外見こそは小学生なのだが、立ち振る舞いや言動は年頃の女子高生達よりも遥かに大人びている。

そんな女性にそこまで冷静に言われれば確かな根拠は無くとも安心できてしまう。

「…ごめん、取り乱しちまって…。」
再びイスに腰をおろす。
すでにグラスの中の半分の氷がとけているレモンスカッシュを喉に流しこむ。
薄まった炭酸とレモンの酸っぱさがこんがらがった頭を爽快にさせた。

「わかった。
すぐには死なない事は理解できた。
では、何故、お前は、俺の夢にお前自身が出てきたのがわかったんだ?」

一見すると意味不明はこちらの質問に工藤 ユキは淡々と答える。
「私があなたを消化吸収した{夢}。それは完全なる私の不注意。」
罪状を認め執行猶予を求めようとする弁護側の主張のようである。

ここで、反撃に出る。
「待て。
{観測者}とか不注意って何だ?
それと昨夜に見た俺の夢に対してお前はどこまで知っているんだ?」

俺が言っているのは夢について。
彼女が言っているのは{夢}について。
あえて言葉の意味を変えている俺の意図が何故そうもわかる?
会話の主導権を奪い返したい気持ちがあった。
だが、相手が悪かった。

工藤 ユキはこちらをじっと見ながらするすると制服のリボンを外しシャツのボタンをはだけ始める。

おい!ここで脱ぐなよ!

幸い、俺達以外に客はいない。
土曜の午後なのになんで客がいないんだ…。
この店、いつもは、大抵5、6人は客が入っている店なのだが…。
さらにここの女子大生マスターも今はバックヤードに引っ込んでいるようだ。
と、それはともかく、
工藤 ユキはシャツの下には何も着ていないようで、はだけた面積と同じ面積の肌色があらわになる。
かろうじて乳頭だけは隠れている。

だが、工藤 ユキは全く恥ずかしがる様子ではない。
「あなたは昨夜の{夢}の中で私のここで死んだ。」
工藤は全く膨らみの無い右胸を指差した。
改めて見ると、やはり第二次性徴前の体であった。

胸をはだけながらも工藤 ユキは続ける。

「不注意とは、あなたを飲み込んでしまったこと。
飲みこむまで私があなたの{夢}に介入している事に気がつかなかったこと。
それに気がついた私は胃液の分泌を弱めた。
しかし、そこからは全く何も対策をえなかった事が大いに謝罪したい点。
だから、私はあなたの生還を手助けすることはできなかった。」

右胸を大きくはだけさせていても、彼女自身依然として全く恥ずかしがっていない。
相手が恥ずかしがらなければこちらも恥ずかしくないと思わなければならない。

俺の問いに対して、いきなり工藤 ユキが脱ぎはじめたことについての行動動機については理解できなかったが、はっきりしたことが2つ。
それは、今回の悪夢で死んだ場所が、あの全く膨らんでいない乳房の中だったことだ。
あの辺りは妊娠後に母乳をつくる場所のはず。
そして、工藤 ユキが見た夢と俺が見た{夢}は完全に一致している点だ。

これらのことがはっきりすれば、後は自ずと聞くべきことが浮かび上がってくる。

「よし、では話が前後してしまっているから整理したい。
まず、{観測者}ってどういう意味だ?
そして、何で俺が満月の夜に決まって悪夢を見ることを知っていたのか?
次に、そして何故その夢の内容まで知っていたのか?
何故お前はそれに介入できるのか?
最後に、その悪夢の中で死ぬとどうして寿命が10年縮むのか?だ。」

この5つを明確にしてもらいたい。
そして後もう1つだけお願いがある…。

「なぁ、胸元…、そこ閉じてくれないか…目のやり場に困る…。」

工藤 ユキのはだけた胸元を、視線を外しながら指差した。
向こうが恥ずかしくないとしても、やはり段々と気まずさは感じ始めていた。
「わかった。」
一言発し、工藤 ユキはシャツのボタンを閉じリボンを締める。
店の有線の切れ目とタイミングが合ってしまい、衣ずれの音が否応にも耳に届く。

工藤 ユキはリボンの形を作り終えるなり語り始めた。

「まず、{観測者}とはから…。
あなたの特異体質はその目覚めの頃から確認はされていたが、あなた自身や周囲に実害を及ぼさないことから注目はされなかった。
ただ、{裏の行政組織}たる組織の庇護下に置くことだけが決定されていた。