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ウエストテンプル
ウエストテンプル
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ナイトメアトゥルー 3

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このままこの消化中の物体と一緒に流されていけば体から出られるはずだ。

幽門を通り過ぎると次は十二指腸。
ここでは茶色い液体が降り注いできたがこれもまたさしたるダメージにはならずなんなく通過できた。
そして、次は……。
ここは小腸だろうか?
目に飛び込んでくるのはおびびただしいイソギンチャクのような集団。
あれは柔毛だろう。
おかげで、ここが工藤 ユキの小腸の中だと確信できる。

体にまとわりついていたヨーグルトはもう完全に剥がれた。
胃酸からガードしていてくれてありがとう、後は工藤 ユキに吸収され善玉菌を届けてやってくれ。

それにしても工藤 ユキの腹の中って綺麗だなぁ…。
艶やかな光を放つピンク色の肉壁は人工的に表現できる美しさではない。
顔が整った女の子は内臓の中も美しい。
そんなどうでもいい妄想をあれこれと膨らませたことにより幾分かの時間が過ぎていた。
消化吸収中のドロドロの液体に体をゆだね小腸の中を進んでいく。
この被消化物の中のグルコースやグリセリンは柔毛を通して工藤 ユキに吸収されているのであろう。

それにしても…。
喉かわいたな…。
それに…、手も何か変な感覚だ…。
血液が通っていってない感じがする…。
そんな気がして、ふと右手を見る。
見てしまった。

なんてことだ!
右手がおかしなことになっている!
これじゃミイラの手じゃないか…!
いや、右手だけじゃない…。
左手も…。
そして、両足もだ。
胴体はアバラが浮き上がってきている。
そう、体中がどんどんと干からびてきているのだ。

小腸は栄養を吸い大腸は水分を吸うと一般的には言われているが実は違う。
厳密には、大腸は小腸で吸収されなかった水分を吸い取っているに過ぎず、極論であるが大腸は便を固くするだけの消化器官なのだ。

「何故だ…柔毛に吸収されるには分子レベルにまで分解される必要があるのに…。」
そう口にして始めて俺は大事なことを見落としいたことに気づいた。
「俺の…今の体のサイズは…どれくらいなんだ…?」
単純なことを見落としていた。
消化酵素を小腸も分泌することを完全に失念していた。

人体の消化において胃の活動が一番インパクトを与えるのだが、小腸もペプチダーゼやリパーゼ・マルターゼを分泌する。
その働きは、胃においてペプシンを含んだ強い酸性の胃液で分解された脂肪やタンパク質を、小腸がさらにそれらを小さな分子にまで分解し柔毛にて吸収することを促すことだ。

そして、もう1つの大きな見落としは俺の体のサイズ。
胃液に漂っていた極小まで細かくなっていたはずの野菜の切れ端を大船に感じていたことだ。
それを俺は工藤 ユキ自身がよく噛まなかったからと錯覚していた。
即ち、その時からどんどんと体は小さくなり続け、今では分子レベルに近い程極小にのサイズになっている。
分子レベルということは、そのまま柔毛内の毛細血管やリンパ管に吸収されてしまう恐れがある。

現に手足が吸収されかけている。
単純に考えれば人間の体は脂肪とタンパク質だ。
腸液に簡単に反応してしまうのだ。
それでも、体の大きさがスイカの種やコーン程度の大きさであれば、そういった消化酵素にダメージを受けながらも大腸へと流される可能性だってあった。
だが、このサイズは絶望的に小さすぎる。
これでは工藤 ユキの6メートルあまりの小腸は惑星の直径だ。

その果てしない道中の消化活動には絶対に耐えられないだろう。

人間の消化活動は、物理的消化と化学的消化の2つに分かれる。

物理的消化は、そしゃくや消化管による蠕動運動や分節運動などの物理的な力を加えて食物を小さくするはたらきだ。
その残った物が便となり排便される。

もしスイカの種やコーン程度の大きさであれば、物理的消化の残りカスといった形で直腸に辿りつき肛門から脱出する術はあった。
しかし、今、現実には柔毛の先端にこびりついてしまっている。
物理的消化は避けられても化学的消化を避けられなかったことには変わりはない。

化学的消化は、唾液などの体液に含まれる消化酵素によって食べ物から生じた化学物質を小さな分子にするはたらきである。
そのはたらきによって小さくなった分子は小腸の柔毛にて吸収される。
そして、今の俺は、分解はされてはいないもののそれと同じ扱いである。
したがってこの体の形のまま工藤 ユキの体に吸収されることになる。

柔毛の先端に付着した体が次第に柔毛の中に埋まっていく。

柔毛の感触は柔らかく、ふわふわの毛布に包まれていく感覚だった。
抵抗虚しく足と胴体はあっけなく埋まった。
最後に顔全体が埋まり、意識が飛びかける。

ここで意識が飛べば、{夢}から覚めるのを期待した。
だが、今回はこれでは終わらなかった。
虚ろな意識まま血管内を漂流する。
俺だった物を運ぶ血液の色は、黒に近い赤から美しいほどのピンクといった具合に目まぐるしく変わる。
静脈、動脈の中を行ったり来たりしているのであろう。
残酷なことに意識が戻る。
{夢}から覚められない。
意識が回復しかけた頃には工藤 ユキの体を廻りに廻って、大きな空洞の中の貯蔵庫のような物の中に閉じ込められていた。

ここは細胞なのか?
それともどこかの脂肪として蓄えられたのか?
それを確認する術は無い。

とにもかくにも体を自由に動かせない。
人としての形と意識が残ったまま収納されてしまったのだ。

じわりじわりと蝕むように、脱水症状時のような頭痛や全身の倦怠感、手足のしびれに侵食される。
もちろんそれに抗う術なぞ無い。

熱帯夜に毛布をかけたまま金縛りにあったかのごとく水も摂取できなければ体も動かせない。
そのまま蒸し暑さと体の渇きを最高潮にして、即死の時とは違う痛みと苦しみを味わうことになった。
今回の悪夢は、人の形を残したまま吸収されて工藤 ユキの未発達な体の一部になってしまい幕を閉じた。







かまびすしいメール着信音が枕もとを揺るがす。
その目覚まし音と激しい喉の渇きを感じて目覚めた満月の日の翌朝。
体を自由に動かせることに簡単な感動を覚えながら、音の発信源の通信機器を開いてメールの文面を確認する。


  FROM 工藤 ユキ
  題名   無題

  本文   
  大変申し訳無いことをした、謝罪をさせてくれ。
           ─END─

頭の中が混乱したのは無理もない。
今しがた見た悪夢の中で、俺を消化吸収した人物から即座にメールが来たのだ。

謝罪?
それはどういう意味だ?
この文面の謝罪はどういった動機で生じた物なのか
解釈に時間がかかる。
寝起きの頭をフル活動させる。
あの{夢}を工藤も見ていたのか?
よって、夢の中とは言え俺を消化吸収したことを詫びているのか?
それとも何か現実の世界で不都合なことでもやらかしたのか?

全く皆目見当もつかない。
考えながら、バスルームに歩を進める。
追浜の時と同じで、あいつも俺と同じ{夢}を見ていたのか?
いや…。
わざわざ自分が見た夢の中のことで謝るか?
そもそも俺がそういった内容の夢を見ている保障なんてどこにも無いはずだ…。

単純に寝ぼけてメールを送ってしまったのか?
いや、違う…。