小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ウエストテンプル
ウエストテンプル
novelistID. 49383
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ナイトメアトゥルー 3

INDEX|2ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

彼女はヨーグルトをデザートとして食べたらしく、すでに胃の中では豆類や根菜類が形を崩しながら漂っている。

あんなに小さな体のくせに、胃の中の溶かす力は強力なんだな…。

工藤 ユキの胃の内容物を物色してみる。
他に肉らしきものや穀物は見当たらなかった。
サラダにヨーグルトか。
どんだけ健康志向なんだよ。
でも、胃の中なのに食べた物の大きさがかなりある。
あいつ、よく噛まなかったな…。
それじゃ消化吸収の効率が悪くなるんじゃないか?
それに、肉や穀物を食べないと体が成長しないと思うのだが。

工藤 ユキの食生活については横に置いておくとして、次第にヨーグルトまみれになっていても体の自由がきくようになってきた。
このベトベトに体がなれたようだ。
胃の入り口である噴門からは次から次へと工藤 ユキが溜飲しているヨーグルトが流れこんできている。

またあのヨーグルトの土石流に巻き込まれたら命を落としかねないので、胃液溜まりへと落ちないように工藤 ユキの胃の中の淵を慎重に歩く。
1000分の1の大きさの為、胃の中は巨大なドーム空間のようだ。
胃壁からは胃液が噴き出している。
鼻の中のヨーグルトが拭えたことで嗅覚も復活する。

しかし、だが、けれども、
禍福はあざなえる縄の如し。
何が幸福で不幸かわからない。
何故なら、よって、しかるに、
嗅覚が復活したことで工藤 ユキの胃の中の臭いが嗅覚を激しく攻撃するのだ。

湿気を含みつつも焼けつくような臭い。
あの全く膨らみのない胸の下辺りの裏側はこんな臭いなのか。
よろめき、寸での所で胃液溜まり落ちるところを踏みとどまる。
ここに落ちたら水に落ちた蟻のようになるのは明白だ。

でも、あれ?
待てよ……。
ここで1つ、あることに気がつく。
先程から冷静に工藤 ユキの胃の中を考察しているのだが、体が胃液にやられていないのだ。
何故だ?
いや、まさか…。
もしかすると、この体中にまとわりついているヨーグルトのおかげなのか…。
思いつき有り得そうなのは、このヨーグルトにはビフィズス菌を腸までに運ぶために胃酸では溶かされないコーティングがされている可能性。

絶望の中にこうした可能性が見出せたなら良い方向に事が進んでいると思わなければ。
よし!
こうなれば善を急げだ。
胃の中に転がっている未消化の食べ物をイカダにして幽門まで行こう。

目的への手段が見つかったのであれば試すべきことが見つかってくる。
それは、この{夢}の中における俺の消化耐性。
これを明確にしなければ目的を計画に移行できない。

胃の陸になっている部分から胃液溜まりに足先を少しだけつける。
足先を中心に大量の気泡が発生する、塩酸の中に落したマグネシウムのごとく。
だが、泡が浮き上がったとて俺自身にはダメージはない。
あるとすれば少しヒリヒリする程度。
致命傷にならない確信。
4月の追浜 叶絵が相手だったあの{夢}の時は違う。
あの前例とは明らかに違う。
あの悪夢の中で追浜に呑まれた時はこんなもんじゃなかった。
あの時は、容赦なくPH2の強酸性にやられてしまい跡形も無く溶けてしまったし、そうした物理的消化だけでなく、ペプシンで体中のタンパク質を全て分解される化学的消化をされる感覚さえもしたほどだった。

追浜 叶絵。
あいつは見るからに快食快便そうだからな。
どんな物もすぐに消化してすぐに排泄するイメージだ。
だが、今回は違う。
この胃液溜まりの中に一定時間浸かってさえいなければ消化されることはないだろう。
今一度、この広大な空間を見渡す。
臭いにはもう慣れた。

すぐに消化されないことがわかれば、禍々しいと感じていた胃壁も一種の洞窟絵画にも見えてくる。
絶対に生きて脱出するんだ。
そういった決意がみなぎってくる。
その為には…。
この胃液溜まりを突破しないと…。

胃液溜まり際には、胃の蠕動運動によってレタスらしき物が打ち寄せられていた。
咀嚼と物理的な消化で、食べた本人から見れば遥かに小さくはなってはいるけど今の俺のサイズでは大きなカヌーボードである。
そのカヌーボートを湖に着水させる。
案の定、大量の泡が噴き出るがみた感じ幽門までは持ってくれそうだ。
葉物野菜だった物の上に乗る。
しかし、ここで問題発生。
どうやって漕ごうか?
漕がなければ推進力は生まれない。
だが、ここで幸運が続いた。
そのカヌーボートに身を乗せたと同時に蠕動運動がおきたのだった。
大きな荒波が起こったことでそのボートごと幽門方向に向かって流されることとなる。

これは好都合だ、このまま幽門まで流されてくれれば時間は大いに短縮できる。
開いた幽門はとうもろこしでさえ通れるのだから、このサイズでは幽門が開く前に通れるであろう。
それにしても…なににしても…、
工藤 ユキは外見こそ小学生みたいに幼いのだが胃の活動は無慈悲そのものだ。
彼女食べられた物らが蠕動運動と同時に胃液へと絡み合い次々と原型を崩していく。

このヨーグルトのコーティングの効果を改めて実感する。
実感した所で胃の中の大きさが先程よりも広がっている事に気がつく。
ここにきて工藤 ユキに呑みこまれる前よりもまた体のサイズが小さくなっているのか?
この強酸性にも耐えられているのはこの大きさのおかげゆえであるのか?
もしかすると、体内侵入後にビフィズス菌レベルにまで体が縮んでしまったかもしれない。

いや、考えていても仕方が無い。
緑色のボートももう限界が近いようだ。
船底がもう無くなりかけている。
だが、沈没寸前のボートは開いた幽門の近くにまで辿りついていた。
感謝をしなければここまで運んでくれたことを。
胃の中における目的地だった幽門のさらにその先は異次元への洞穴のように口を広げては閉じている。

あのすぼみが工藤 ユキの幽門か。
通常、6時間かけてじっくり消化された物があそこを通れるのだが、俺にはそんな時間は無い。
このコーティングだっていつ効果が無くなるかわからない。
悠長に待ってはいられない。
{夢}の終わりさえはっきりとわからないのだ。
噛み砕かれて胃の中で意識を失った追浜の時と違い、今回のこの{夢}では溶かされ液状になったとしても意識が残ったままになる可能性だってある。

だからこそ生存の形にはこだわった方がいい。
そんな気がする。
この人の形である固体を維持していけば、うまく肛門を通り過ぎることだってできるはずだ。
でも、もし、工藤 ユキの直腸に固形便が滞留していたとしたら…。
前に進めない状況で後発便に押し潰される可能性だって否定はできない。
いや、そんな後の事は考えていても意味は無い。
今、あれこれと考えたところで推測の域を脱出できる決定打なぞ見つけることなぞできない。
思考が行ったり来たりするのが一番やってはいけないことだ。
現状における危険性の排除が第一優先事項だ。
とにかく、今はこの胃酸地獄から脱出しなければならない。

幽門は開いている。
開かれた幽門にドロドロに消化された物らが通り過ぎようとしている。
そのドロドロの物体へと飛び込む。
多少、胃酸の海に飛び込む格好にはなったが、さしたるダメージを受けなかった。