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ウエストテンプル
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ナイトメアトゥルー 3

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啓司


ナイトメアトゥルー3


6月の満月の夜の悪夢は俺の運命を大きく変えた。
いや、運命はあらかじめ決まっていて、それに気がついただけかもしれない。







眠りについたはずなのにしっかりとした感覚がある。
今月もまたあの悪夢が始まった。
この度の{夢}は底が深い器の中から始まった。

しかし、その器の底が深いと感じたのはこの体のサイズがとてつもなく小さいからかもしれず、今回の{夢}に出てくる女の子にとっては底の浅い器に感じるかもしれない。
自分との大きさを比べる物が他に見あたらないせいで今回の{夢}のなかにおけるサイズについて皆目見当がつかない。
だが、確実に言えるのは自力でここから脱出することは不可能であることだけだ。
加えて、この器は確実に食べ物か飲み物を入れる器である。
ここに食べ物を盛りつけられたり飲み物を注がれたりするものならば、死への可能性は格段に飛躍する。

重なる不吉な確実。

でも、それは今の自分の大きさ次第でいかように希望はある。
それなりの大きさであるならば発見される可能性も大きくなり、それに比例して助かる可能性も増加するのだ。
しかし、その逆だったら…。
想像もしたくない…。

マイナス思考を振り払おうと息を大きく吸い込む。
すると急に辺りが暗くなった。
このパターンはこの悪夢の中で女の子が登場する前ぶれだ。
今回は誰なのだろうか…?
中学時代のこの{夢}への登場条件は俺が一方的に好意を寄せている子だったのだが、最近はそれがどうも違った方向に向いているようだ。
高校に入ってからこの{夢}の登場条件は、何故か身近な女の子にまで門戸が開放されてしまっているのだ。

だからこそ、
今回は誰なのだろうか…?
恐るおそる、上を向く。
器の外へと視界を向けようとしたのだが、
そこには女の子の顔ではなくヨーグルトの箱が開封された状態で傾いていたのだった。
その横にはスプーンが添えられ箱の中身全てを掻きだそうとしている。
そして、その大きさは俺を絶望させた。
今、俺が見えている物体らから推測するに、今回の悪夢の体のサイズはゴマ粒以下の大きさである。

こんな大きさでは発見される可能性はゼロに近い。

絶望に打ちひしがれる俺だがそんな存在なぞつゆ知らず作業は続く。
ミキサー車から出てくるコンクリートのようにヨーグルトは次々と掻きだされる。
もちろん器の中には白いドロドロした液体が地滑りのように流れてくる。
押し寄せるヨーグルトに抵抗する術なぞ無い。
今、自分が上を向いているのか下を向いているのかもわからない状況になる。
苦しい。
夢の中とはいえ苦しさや痛みを感じてしまうのもこの{夢}が悪夢である理由だ。
ヨーグルトの甘酸っぱい匂いが鼻の中を占領する。
しかし、ドロドロとしたヨーグルトの中でも、必死でもがくことで奇跡的に表面にまで顔を出すことに成功した。

だが、次の瞬間、また新しい別なドロドロの液体が降り注いできた。
黄色くて甘い。
これは……、ハチミツだ。
粘り気がすごい。
ヨーグルトにハチミツ。
これのせいで確実に身動きがとれなくなる。
器の中にあるのは食品。
その食品に混入した一粒の小人の行先は決まりきっている。

その行先へ強制連行させるは巨大なスプーン。
無機質な銀色の食器がこちらに向かってきたとて抗う術は一切無い。
あっさりとヨーグルトと一緒にスプーンですくわれて、ようやく今回の女の子の顔が確認できた。

今回の{夢}の相手は、幼馴染である追浜 叶絵の友人でもありクラスメートでもある女子高生とは思えない幼い外見の美少女。

「く、工藤…、工藤 ユキ!!」

大声をあげたが当然彼女は気がつかない。
相手がわかったところで、ドロドロしてネチョネチョした流動食の中にいるため思うように身動きがとれない事態には変わりない。
ただの呼吸すらも厳しい状況。
いきなりの難易度MAXの悪夢。
見た目が幼女であろうとその消化器器官は容赦が無いはず。
このまま喰べられてしまっては悪夢からの生還は全くの夢物語となる。

もっとも夢の中なのに夢物語に憧れるのもおかしな話なのだが………。

ともかく現況の確認。
俺は今、食品に混入させられている。
混入場所のスプーンは表面張力限界にヨーグルトとハチミツで満たされており、今にも垂れそうである。

だが、スプーンはある場所から動かない。

おそらく、スプーンを持っている工藤 ユキはこのドロドロした液体が垂れぬように注意深く持っているのであろう。
確かにヨーグルトを食べる際スプーンからポタポタとヨーグルトが落ちるのを完全に防ぐのは中々難しい。

スプーンを中々動かさない工藤 ユキだが彼女の認識下に俺はいない。
それは視線でわかる。
器の中からヨーグルトをすくいあげスプーンを空中で停止させ中々動かさないでいるその視線は異物の混入に全く気がついていないのだ。
改めて自分の小ささを知る。
今の俺はゴマ粒以下の大きさだ。
小学生並みの身長の工藤が1000倍の大きさである。

5月末のとある出来事から会話をするようになり、いつもは俺を見上げる工藤 ユキが今や俺が見上げても全身がつかめない程の大きさになっている。

(会話をするようになったと言っても、こいつは基本無口で、会話をするようになったそれまでのこいつの態度は、怒っていたり無視していることでは無かったことがわかっただけである。)

スプーンが軽く揺れた。
スプーンを改めて握りなおしたのだ。
裏面にこびりついたヨーグルトが器の中に落ちる。
どうやらそれを彼女は待っていたようだ。

揺れが収まったと同時にスプーンが工藤 ユキの小さな口に向かって動きだす。

スプーンを近づけた薄いピンク色の唇が上下に大きく開かれる。
その中央部は真っ暗な洞窟の入口でその奥には奈落の底への穴が待ち構えている。

工藤 ユキの口の中は大量の細い糸を引いていた。
ヨーグルトの酸っぱさから唾液が大量に分泌されていたのであろう。

「おい!工藤!気がついてくれ!」
力の限りに叫ぶ。
もちろん聞こえているわけが無い。

綺麗に並んだ歯が小さな口の中で輝いている。
それに見惚れている時間は無かった。
間を置かずにしてスプーンは口の中へと運ばれ、そしてまたスプーンだけが口の中から抜かれたのだ。

口の中に残されたヨーグルトとハチミツと俺。
ヨーグルトは噛まない食べ物だ。
工藤 ユキの口の中は咀嚼をパスし溜飲の動きとなる。
なので、舌の上に転がる間もなくヨーグルトと共に彼女の喉をすべり落ちることになった。

こうもあっさりいとも簡単に喰べられてしまったが、考えようによっては幸運かもしれない。
追浜の時は、口の中で死亡が確定したようなものだが、今回はまだ生きている。
どうにかして胃を通過できれば生きて出てこられるかもしれないのだ。

食道を通り過ぎて大きな空間に到着した。
工藤 ユキの胃の中だ。
この悪夢のおかしな所と言えば、全く光が届かない場所のはずなのに周りの光景を視認できる事だ。
よって、否が応でも工藤 ユキの体の中が見えてしまう。