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ウエストテンプル
ウエストテンプル
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ナイトメアトゥルー 3

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三波 ハルカさんが黙りこんでしまったので、今度はこちらが口を開く。
「ところで、俺の寿命はどうなったんですか?」
大事なことなので久々に言葉に出して質問した。

三波 ハルカさんの話し方も、先程の算数を教える近所の魅力的なお姉さんのような語り口に戻った。
「結論から言えば、6月に失った分は君とユキちゃんとミリアちゃんの3人で分けられたわ。」

10年を3人で分ける?

「うーん、厳密に言えば違うわね。
君が手に入れたのは純粋な寿命3年分。
ユキちゃんが手に入れたのは3年分の経験。
ミリアちゃんが手に入れたのは現実世界における3年分の体。」

残りの1年は…。

「ごめんなさい、そこまではわからないわ。
でも、まず、君は単純に寿命が3年戻ったわ。
ユキちゃんの場合、式の使役レベル向上と限定的かつ時限的な体の成育。
ミリアちゃんの場合、今、君の膝の上にいることが証拠よ。」

「いや、ちょっと待って下さい。
{ナイトメア}で失った寿命を取り戻す猶予って1ヶ月あったはずでは?」

「そこはあの子が認識しえなかったことね、
それは{ナイトメア}に引き込まれ、その{ナイトメア}を持つ本人の寿命を奪った一般人の場合。
{ナイトメア}を持つ者同士のことまではあの子には教えてなかったわ…。」

残りの7年分は俺に戻ってこないってことか。

「つまり、一般の人の場合、現実世界においてバストアップやウエストの皮下脂肪低下などの効果が現れるけど、特異体質同士の場合、その影響は{ナイトメア}の世界に現れるの。」

工藤 ユキの乳腺葉に母乳が生成されたのはその関係か。

「うん、あの子は君の抜け殻を乳腺葉の中でそのままの形を維持させることができなかった。
言わば、君を1日かけて消化吸収してしまったの。
そして、その直後に母乳を作りあげてしまい、その結果、使役している式のレベルが上がったのよ。」

そう言われ、不意にある光景を思い出した。
乳管内でのミリアの急な口調の変化である。

時代も方言もバラバラだったあいつの口調が急に標準語に統一された。
しかし、それを本人は自覚していなかった…。
無理もない。
自分本意でレベルが上がったのではないのだから。

さらに、それはミリアが俺の抜け殻のニオイが消えたと言った時、
その代わりのニオイが甘い匂いになった、と言った。

つまり、母乳が生成されたと同時にミリアの知能指数が向上したのだ。
それが工藤 ユキの式の使役レベル向上と限定的かつ時限的な体の成育。
式と表現される使い魔とも言うべきミリアのレベルアップと乳腺内の母乳の生成。

でも、待てよ。
それじゃ、俺の寿命と膝の上のミリアはどうやって…。

「そうね。
君はユキちゃんの乳腺葉の中で母乳を飲んでしまい、ミリアちゃんは君を吸い出す為にユキちゃんの母乳を飲み干した。
その結果、君の抜け殻は3つに分割されたって事なの。」

て、ことは10年の俺の寿命は?

「まず、ユキちゃんがその10年分を{ナイトメア}内のミリアちゃんのレベルアップと僅かな胸の膨らみと母乳生成に割り当てたわ。
その母乳を伊達君が飲んだことによりそれが3年分の寿命。
さらに、ミリアちゃんがその全てを飲んだ事により、ミリアちゃんは現実世界での3歳児に満たない体を手に入れたの。」

もうすでに三波 ハルカさんの声調は算数を教える優しいお姉さんから難しい数式を説明する女史のようになっていた。
俺もただ押し黙るしかなかった。
またやはり、心の中には何も浮かんでこなかった。

ただ、
「るるるーーーー。るーるーるー。」
と、ミリアだけが楽しそうだった。

ミリアはモフモフした小さな尻尾をしきりに振っている。
尻尾だけが外に出ているなんて手の込んでいるローブなんだ。

「ところで、こいつのことなんですけど工藤の{ナイトメア}の中では詳しく聞けなかったのですが…。」

確か、誰かからの{ナイトメア}から流れてきたようなことを言っていたが…。

三波 ハルカさんは少し神妙な顔つきになる。
「ミリアちゃん、今でこそこの名前によって縛られておとなしくなっているけど、ユキちゃんの{ナイトメア}に現れるまでの彼女は、」

三波 ハルカさんがここまで言いかけると膝の上の感触が変わった。
ミリアが尻尾をピンと張り出したのだ。

「るーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

ミリアはお気に入りのおもちゃを取りあげられた幼女のように三波 ハルカさんに抗議している。
これじゃむしろ怒っているというか、かんしゃくを起こしているようだ。

三波 ハルカさんの対応も大人である。

「あら、ごめんなさいね。
うん、時期が来たらあなたから話しなさい。」
と、ニコリと笑って言った。

「るー。」

自分の要望が通り、
フンと鼻を鳴らし得意げになるミリア。

いや、試合には勝ったけど勝負には負けているよ…犬幼女よ…。

すると、ミリアは突然左右を見まわしだし、俺の膝から飛び降りるなりてけてけと部屋の片隅に歩いていくと全身が光り出したのだった。

「なんだ?なにかのイリュージョンでも始まるのか?」

冗談のつもりだった。
だが、本当にイリュージョンは起こった。
光がおさまるとそのままミリアの姿が煙のように消えたのだ。

「ミリア!!!」

あまりにもの不意の出来事に驚いてしまった。
消えちまったぞ…。
どこ行ったんだ、あいつ。

「ふふ、心配いらないわ。
そんなに心配してあげるなんて優しいのね。
やっぱり君はあの子に似ているわ。」

三波 ハルカさんは少し意地悪そうに笑った。

「ふふ、ごめんなさいね。
ええ、ミリアちゃんは大丈夫よ。
ここの現実世界での本体が目覚めただけ、だからあの姿が体の方に戻ったって事なの」

なんだ、それならよかった。

またあいつとは近いうちにああいった形で会う事にもなるだろう。
膝の上に残っているミリアの体温を感じつつ、彼女のイリュージョンによって中断していた話を戻す。

「ところで、寿命の件なんですが…。」
2回目だが、大事なことなので口に出して言った。

三波 ハルカさんの表情が三度神妙になる。

「今度こそ忌憚なく言うわ。
伊達君、君は確実に27年寿命が縮まっている。
そして、君は16年生きてきた。
けれど、人の人生いつまで寿命があるかわからない。
でもこれだけ言えるのは、16から30を足した年齢までは確実に寿命があった事になる。」

「46ですか?
想像もできないですけど、そこまでは確実に生きられたんですね。」

「でも、君はその分の寿命を失っている。
もし仮に君の本来の寿命が50代前半の場合、そこからの10年は……。」

膝の上に残っていたミリアの温もりはもうすでに無くなっていた。

「0かマイナスですね。」

「そう、だから、君はこれから君の{ナイトメア}の世界では是が非でも死を回避しないといけないのよ。
でも、死を回避し続けた所でも最悪のケースがある。」

頭の中に浮かぶ最少の数。

16(今の俺の年齢)+30(失った寿命)=46。
だけども、俺の本来の寿命は47歳までだった場合。