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ウエストテンプル
ウエストテンプル
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ナイトメアトゥルー 3

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それのせいによって真の睡眠が取れず、彼女は成長ホルモンの分泌を甘受できなかった。

だからこそのこの小さな体。

ふぅと溜息をつき部屋を見回し時計を探す。
閉め切りの部屋だが間接照明のおかげで目はきく。
デジタル時計がすぐに目に入った。
時計はもうすでに朝の7時をさしていた。

時刻を確認しもう一度ベッドの中で寝息をたてている工藤を見たが、別の所から声がした。
「目覚めたかしら?伊達いすみ君。」
「!?」
急な問いかけに驚く。
誰だ?
この声は工藤の声では無い。
じゃあ、俺達以外にも人がいるのか?
いつからここにいた?
強盗か?
しかし、こんなに余裕のある強盗なんているか?
加えて、こんなに警備が厳重なマンションに不審者なんて入れるはずがない。

昨夜の段階からこの部屋にいた可能性だってある。
そう言えば寝る前に部屋の中をよく確認していなかった。

いや、それよりも、何で、俺の名前を知っているんだ?
聞いた事の無い声は会った事の無い人物。
そんな人物がどうして俺の名前を知っている?
個人情報が流出しているのか?

目覚め直後の頭がより一層混乱する。

「そんなにびっくりしないで、敵じゃないわ。」

落ちついた女性の声だった。
工藤とはまた違う落ち着き方だった。
工藤 ユキのクールさは本心を隠しているような言わば仮面の落ち着きであるに対し、この声は人生の修羅場をくぐり抜けてきた事によって生じる余裕から出てくる正真正銘な落ち着きである。

落着いた声は心拍数の躍動を少しばかりか抑えさせてくれた。

声は部屋の片隅から発せられているので、その声のする暗がりに視線を転じて目を凝らす。
「全てを見させてもらったわ、大変だったわね。」
凝らした視線の返答は導くような声だった。

「うん、やっぱり、こんな暗い所でお話をするよりも明るい所に移ってお話するほうがいいわね、それに、ここにはまだお姫様がお目覚めでないわ。」

暗闇にやった視線を工藤へ戻す。
工藤 ユキは変わらずに寝息をたてて寝ている。
その寝顔につい視線を定めてしまう。

「ふふふ、可愛いでしょ。今だったらおでこにキスぐらいならしちゃっていいわよ。」

いや!
そんなつもりは!

意地悪げな声がした暗闇に視線を再び向ける。
瞳孔が暗順応してきたおかげでようやく声の主のシルエットを確認できるようになった。

ロングヘアの女性だ…それに体のラインは細い…でも胸の位置だけがふっくらしている。

「もう、そんなジロジロ見ないでよ。」
「…ご、ごめんなさい」

見抜かれた、いや…、何でこんな暗闇の中でわかったんだ?
女性は男性の視線がわかると言うが、ここまですごい物なのか?
でも正直、間接照明の明かりだけだから話しがしづらい。

「そうね。早く明るい場所に移動しましょう。」
するとその声は扉を開けた。
扉の先の部屋から朝の光が漏れてくる。

暗順応した目にとっては強すぎる光だ。
その光を背に声の主は立っている。
まるで闇夜の世界に後光が射した女神が降臨したような図になる。
その女神はそのままダイニングキッチンへと歩いていく。
その女神を見失わないようにベッドから降り必死でついていく。
「そんなに慌てなくても消えたりはしないわ。」
女神は多少困ったような声で言った。
……。
何だろう…
先程から常に俺の一手先を読んでいるような言動だ。
まるで麻雀とかで自分の持ち牌を全て見られているような感覚になる。

ここでようやく目が光に順応してきた。
同時、暗闇の声を追っているうちにダイニングキッチンへと到着していたのだった。
すでにその女神はキッチンのイスに座っている。
目が明るさに慣れたおかげでようやく女神の全貌を拝見できた。

美しい…美しすぎる!!
こんなに美しい人間がこの世に存在していたのか。

工藤 ユキのあの世界の中でミリアに対する感覚とはまた違う美の衝撃だ。
ミリアが理想の美しさであれば目の前の女性は究極の美しさだ。

顔の部品の一つ一つが綺麗でそれが絶妙の配置にて整えられている。
髪の毛は腰まで伸びていてその一本一本に美の妖精が宿っているようだ。
体のラインは先程見たとおり絶妙な黄金比だ。
服装は黒のパンツスーツ、上は白のワイシャツで上のボタンを2つ外している、そこにさらに黒のブラウスを羽織っている。

清楚な印象を受けるその姿はまさに女神そのもの。

「もう…、女神なんておおげさね。
私は三波(みは) ハルカよ、よろしくね。」
三波 ハルカさんと名乗った女神はテーブル越しのイスを指差す。
「じゃあ、そこに座って。」
美しさは時に強大な権力にもなりうる。
「は、はひ。」
何も抵抗を考えないままイスに座ってしまった。

イスに座ると三波 ハルカさんの吸い込まれそうな瞳をつい覗き込んでしまう。
柔和そうであるが芯の強い人柄であることはすぐに予想できた。
そして、この人が工藤 ユキの傀儡師であることはすぐに理解できた。

「うん…。」
三波ハルカさんはじっと俺の目を見てから、その視線をテーブルの下へと降ろした。

「あとは…この子もお話に入れてあげましょ。」
テーブルの下へと腰を曲げた姿勢から再び元の姿勢へと戻ると、三波 ハルカさんは2歳ぐらいの女の子を抱き上げていた。

この女の子もいつからいたんだ?
テーブルの下なんて見てはいなかったけど、気配すら無かった。
三波 ハルカさんに続いて不意な登場の連続である。

高校に入ってから驚きの連続であるので免疫はついたと思ってはいたが、それはとんだ見当違いだった。
予想の斜め上をかっ飛び続けてる。
この女の子も何か特異な存在なのであろう。
そんな事は言わずもがなだ。
三波 ハルカさんが抱き上げた女の子をよく見てみる。
2歳児にしては顔の部品ができあがっており、成長後はかなりの美人になることは確証されている。
髪の毛は茶色で、その子専用かのような小さなローブに浅く被ったフード。
「るーーー。」
女の子は何かを欲しがるように言葉にならない音を発している。

待てよ…。
この女の子、誰かに似ているような…。
ま…まさか。

三波 ハルカさんは膝の上の2歳児のフードを外した。
やはり頭の上からは大きな犬耳が姿を現したのだった。
「そう、ミリアちゃんよ。どうやら昨夜の{ナイトメア}のおかげで現実でもこの姿でなら具現化できるようね。」
「るーーーーーー。」
「…………………。」

驚きのあまり言葉が出ない。
ホント、斜め上どころか落下点の無い放物線を描いちゃってるよ…。

「あぁもうミリアちゃんたら。やっぱ、伊達君がいいのね。」
「るーーるーーるーー!!!」
ミリアはハルカさんの膝の上に座りながらテーブルを叩いている。

幼児特有の自己主張だ。

「じゃあ、どうぞ。」
ハルカさんはミリアを抱いたまま立ちあがりテーブル越しにミリアを俺に渡した。
手渡された犬耳幼女を膝の上に乗せる。

「るーるーるーるるーー。」
ご機嫌そうなミリアだ。

「いや…、少し待ってください…。
こいつは現実の世界では柴犬の中に精神があって…、この姿ってようはその精神体ってことですよね…。じゃあ、柴犬の体の方はどうなっているのですか?」