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ウエストテンプル
ウエストテンプル
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ナイトメアトゥルー 2

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あの{悪夢}の中で死んだ時の目覚めは悪い。

体中全体がプレス機で押し潰されたような感覚がして中々着替えられない。

窓の外には五月雨が降りしきっていた。
そのおかげで外の景色は遠近感を失い、より一層に気持ちを沈ませる。

学校一最も清純な女の子の最も汚れた瞬間を見てしまったのだ。
「東京に来て、確実に悪化してるじゃねぇか…。」
窓の外に向かってつぶやく。

中学までは、身近な子・アイドルの子を問わず、俺が好きな女の子が出現条件だった。
そして、その{夢}の中で弄ばれることはあっても死に至ることは滅多になかった。
なのに…。
東京に来てからは…。
100歩譲って、追浜は俺にとって大事な人間だから出てきたのはわかる。
しかし、佐藤 麻里と待瀬 清麗はどう説明する。

佐藤とは今でこそ仲が良くなったが、4月の満月の夢の時点ではあまり会話を交わしていなかったし、待瀬に至っては、ただクラスの行事への取り組みの関係で話をするようになっただけである。

いや、本音を言えばどうなる…。

迫られたから?
それで無意識下であいつに好意を寄せていたのか…。

出現条件が緩和されすぎている。

そしてそれよりも大事なことは2か月連続で死に至ったことだ。
最近は、状況的に生還が難しかったが、今までにこんなことは一度もなかった。

浮かんでは消える満月の夜の不可思議体験の考察は、結局、答えが見いだせないままだった。



学校の中には必ず1人こういう奴がいる。
ムダに情報に詳しい奴。
我が秀桜高校では、自称、三黒 翔っていう奴がそれにあたる。
こいつの兄はフリーの記者らしい。
こいつとはゴールデンウィークの時にひょんな事から知り合った。

三黒 翔は昼休みには必ず新聞部の部室にいるので捕捉は容易だ。
新聞部の部室をノックする。

「開いてるよぉ――。」

中からふてぶてしい声が聞こえた。
新聞部の2年と3年はチアリーディング部の取材に同行しているため公欠扱いになっている。
だから部室内にいるのはあいつだけだ。
先輩達がいなければ何も躊躇することはない。
部室の中へと踏みこむ。
そこには机に足を乗せた姿勢の三黒の姿があった。
本能的に下手に出たら負けると感じた。

「おい、三黒。待瀬、待瀬 清麗のことについて詳しく教えてくれないか?」
無礼だと思われるがこいつにはこれぐらいの事をしないと対等に会話が進められない。
「んー、乗り換えたの?」
「意味がわかんねぇ。」

何やらを企んでいる表情に見透かしたかのような態度。
だからこそなるべくここからはいち早く脱出したい。

「依頼に質問で返すな。
情報だ、待瀬についての情報だけをくれればいい。」

「あぁ、まぁ、いいけど。
他の人だったらお引き取り願うところだけど、君だから破格で応じてもいいよ。
でも、タダじゃねぇ。
ここはギブアンドテイクでいいかな?」

「物次第だ。何が欲しい?」
「うーん、そうだなぁ…佐藤 麻里と一緒に飯を食う権利。」
「それは佐藤次第じゃないか?」
「いやいや、急に2人きりとかは考えてないよ、だから、伊達君。
君と僕との食事に佐藤が混じるって体でいいのさ。」
「あぁ、そうか。それだったら、何とかなりそうだ。」

そう言ったのは待瀬についての情報がとにかく欲しいから。
佐藤本人の意向を何も聞いていないが、あいつなら了解してくれる見込みはある。
俺の表情を読み取ったかどうかはわからないが、三黒 翔はパチンと指で音を立てた。

「よし。交渉成立。何から知りたい?」
「待瀬 清麗。あいつの家のことだ。」

待ち構えていたばかりに三黒から答えが戻ってくる。

「待瀬ホールディングスのCEOが彼女の父親さ。
彼女の母親はその内助の功でしっかりと夫を支えている。」
「その会社の規模は?」
「まぁ、金融から食品、流通、最近じゃIT関連にまで多角化しているね。」

噂でしか聞いたことは無かったが、まさかここまでのお嬢様とは思わなかった。

「なるほど、これじゃ、年に1・2回しか家に帰れないこともうなずける。」

その俺の言葉を受け三黒の表情が一瞬だけ固まる。
「ん?何だい、それは僕も知らないことだなぁ…。
あっははははー。こりゃ、出しぬかれたねぇ。
まさか、君。
知っていることは知らないフリで、知らないことは知っているフリをして、相手を必要以上に喋らせるタイプかい?」

何か、思う所がありそうな表情である。

「なんだそりゃ?」
「ああ、別に気にしなくていい。」
「あぁ、気にしない。」

気にしないから話を戻す。

「て事は、あいつは乳母とかそういった人に育てられたってわけか。」
「ふふふ。」
三黒は見下したような笑いを漏らす。

「何故、笑う。」
三黒はふざけながらの謝罪の素振りをしながら話だす。
「思い込みは良くないねぇ。でも半分正解。
あの子の両親は、あの子の本当の両親じゃない。
2人は貧乏時代から互いに支え合って商売には、成功してきてはいたが、子宝には恵まれなかった。
だから、孤児院から養子をとったのさ。」

「え…。」
予想だにしない一言で体が固まった。
それでも言葉を続ける。
「その養子が待瀬だったってわけか。」

俺のリアクションに今日一番のニヤニヤした笑顔を三黒は浮かべる。

「なんだよ…その気持ちの悪い笑顔。
お前は、庸兵との実力差を見せつけた元婦警のバンパイアハンターか!!
あれは可愛いから許されたんだぞ。
住民役の看板もろとも爆撃してもな!!」

「元ネタがわかりづらいね、それ。
僕が処女だと言いたいんならそれはナンセンスだね。」

「そうか悪かったな、じゃあ、謝るよ、話しを逸らしたことを含めてな。」

「んー、では、待瀬家の話に戻すよ。
そ、そういう事、その養子ってのが清麗と呼ばれていた少女。
で、待瀬家の養子に迎えられて待瀬 清麗の出来上がりさ。」

「人の戸籍を料理仕立てみたく言うな。」
知り合いをそうした例えで言われると抗議せざるを得ない。
「まぁ、ある意味は仕上がったけどね。」
「どういう意味だ?」
小声で呟いた三黒の言葉に反応したが、三黒は笑う。
ごまかす時のこいつの常套手段だ。
「なんでもないよ。」
「そうか、なら続けろ、待瀬家のことを。」

これ以上、話が逸れるのを避けなくてはならない。

「そ、だから、2人は自分達の愛情を1人娘に12分に注いだんだ。
もちろん、注がれる側ももう物心がついて分別がつく年だったわけさ。
だからこそそれに応える為に良い子であり続けようとしたんだよ。」

「それで、あの敬語ばかりの口調なのか…、良い子であるための演技のために。」
「だろうね。」
「でも、あいつの両親は年に1、2回しか帰ってこれないんだろ、そうなるとあいつも不憫だよな……。」
「ねぇ、伊達君、それって本当に確証のあるネタかい?」
「だって、本人が、そう言ってるんだから…。」

そこから一瞬の間を置いて三黒 翔が言葉を発する。

「本人が言っていたからって、それが真実ってことになるのかい?」
的確すぎる正論に言葉が出てこない。
「……………………、いや、無い。」
ようやく搾り出せた短い言葉。