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ウエストテンプル
ウエストテンプル
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ナイトメアトゥルー 2

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気持ち良さそうなミリアだが、触っているこっちも気分が良くなる。
やっぱ犬っていいね。
ミリアを撫でる手はそのままに視線を夜空へと向ける。
もうすでに日はとっぷりと暮れていた。
月がぼやけて見えるのは五月の不安定な大気によるものだ。
そして、月の膨らみは夜の帳のせいか先程よりも幾分か大きく感じた。
「あーぁ…今月はどんな夢を見るのかなぁ…」
誰にも聞こえないような小さな声でつぶやく。
ミリアは舌を出しながらもっと撫でてくれと懇願している。

ううむ…名残惜しいけど、俺もそろそろ帰らなくちゃ。

「ほれ、お前は追浜の傍にいてやってくれ。あいつだって親父さんが亡くなって寂しいかもしれないんだからな。」

ミリアの頭をポンポンと叩き、犬用の入口を指差す。
ミリアも俺の意図を汲み取ったのか、ヨチヨチと歩きながら家の中へ入っていった。





「よ。今、お帰りかい。不良高校生。」
「うるせぇ、酔っ払い女子大生。」

家の玄関前でバッタリと会ってしまった、会いたくない隣人の女子大生と。
まぁ、いいや、手に持っているこれをわざわざ渡しにいく手間が省けた、ラッキーと言えばラッキーだ。

「あ、これ、美絵さん。追浜 美絵さんから行橋さんにだって。」
「え、追浜部長が…。」

紙袋を受け取ろうとした表情は恐縮しきった様子だったが、紙袋を受け取るなり途端に態度が豹変した。

美絵さんの名前を出してしおらしくなったのは一瞬。
ここに美絵さんがいなければ行橋 莉璃は暴虐の徒となる。

どうやら嫌な事があったらしい。
この女は嫌な事があると酒に溺れ、その矛先を俺にぶつけてくるのだ。

「あ〜ぁ、なんなの?男って?全く…。
「仕事」と「私」どっちが大事?って聞いたら「私」だって…もうほんとにダメ男よ。」

「え…普通はそこ喜ぶ所ですよね?」

「あぁ〜あ、伊達っちもダメ男予備軍ね。
仕事を大事にしない男なんて将来性が無いと自分から認めている証拠よ。
女ってのはね、大事にされていることくらい普段の行動から感じとっているものなのよ
いい、そんな男になっちゃダメよ。」

「はい。わかりました。社会人になったら仕事第一でいきます。」
「うーん…そうじゃないのよねぇ、仕事仕事って脇目を振らないのもどうかと思うし。」
「じゃぁ、どっちなんだよ!!?」
「ええぃ、知るか!知るか!」
「…逆ギレ?」
「もう、今夜は付き合いなさい。」

満月の夜でも無いのに悪夢がやってきた。
しかし、この悪夢は{夢}の中では決してなくリアルな出来事である。
意志確認も抵抗もさせてもらえず、女子大生 行橋 莉璃の部屋に連れ込まれた。

あぁ、これから酔っぱらい女子大生のグチと酒に付き合わなければならないだなんて……。
(俺は絶対に酒飲まないからジュースでちびちびやるしかない。)



――― 月曜日 午後 ―――
―― 秀桜高校 ―――


「え…今、なんて?」
「ですから、Tシャツのデザインが決まらなかったので今夜は伊達君の家で続きをやりましょう。」

週明けの月曜だった。

この日の放課後も待瀬と残り、球技大会についての事を決めていた。
だが、Tシャツを作るのに球技大会の日から逆算すると業者に発注する期限がギリギリらしい。
確かに危機的状況ではあるけど…。
「まぁ、俺はいいけど、待瀬の家の人とかは大丈夫なの?」
「ええ、使用人には先程、連絡しましたから。」

そうだ…こいつお嬢様だったんだ。

「いや、その、親御さんとか…」
「あぁ、えぇ、そこは心配ないのでございますよ。
お二人とも日本に帰ってくるのは1年に2.3回くらいですので。」
待瀬は淡々と答えた。
イチオー、ボク、オトコノコ ナンデスケド…。
頭の中が片言の日本語となったのは、この委員長様、女身一つで男の部屋に乗りこむ事態の重要さに対して今一つピンときていない様子だからだ。

うーん…、でもまぁ、大丈夫だよな。
クラスの決め事を決める事情だし、そもそもこいつのようなお嬢様が俺みたいな庶民を相手にするわけ無いし。
俺だけが、変に意識するのも馬鹿らしいな。
変な自意識を持つと後になって恥ずかしい思いをするのは自明の事でもあるし。

「よし、それじゃあ、決まりだ。じゃあ、俺の家で詰めるとこまで詰めちゃうか。」
「ええ、今日中に決めてしまいたいので。」
待瀬の目は、ドラゴンを討伐する騎士のようにどこか決意がこもっているようにも見えた。
さすが委員長様だ、ここまでクラス行事に身を捧げられるだなんて。





待瀬の家は遠いため、このまま高校から直接、俺の家へ向かうこととなった。
家に着くなりテキパキと仕事をこなし、一旦、キリの良い所まで終わった。
これなら今後の日程に間に合いそうだ。

時間は9時を少し回っていて、待瀬は書類やらを片付けている。
それにしても腹減った…。
空腹具合に気がつく。
昼飯以来、何も口にしていなかったから、腹も減っているのは当然か。

待瀬はどうだろうか、聞いてみよう。
「飯どうする?もし良ければ晩飯作るよ。」
「え。伊達君、料理できるの?」
待瀬は少し驚いたような表情を浮かべた。

「あぁ、まぁ、簡単な物ぐらいなら。
あ、でも、もしかして、この時間なら家に飯の用意とかされていたりするの?」

そう言えば、こいつの家では普段どんな物が食卓に出されているのだろうか、高級食材とか庶民の家には無いぞ。

そんな、俺の中に浮かんだ新たな懸念をよそに、待瀬は多少慌てている。
こいつにしてはやや珍しい反応だ。

「あ。ううん。全然、全然。大丈夫、大丈夫。
私が食べなければ、私に付いているメイドが食べるから。」

多少早口なスピードで話したが、何気に言った言葉でも上流階級の端を感じさせてくれた。

メイドさんね。
本当にいるんだ…、そういう職業の人…。
さっきの使用人って言葉にも引っかかったけど、なんかこう横文字にされるとグレードが上がったように感じてしまうのは日本人の欧米に対する劣等感からだろうか。

でも、まぁ、そんなことはどうでもいい。
今できあがったこいつに対する勝手なイメージで洋風に仕立てよう。
多分、こいつは米よりもパン派だろう。
料理はすぐに出来上がった。
1バゲットのフランスパンを斜めに切り、じゃがいもの香辛料炒めと実入りのコーンスープを添えた。

待瀬は、育ちの良い境遇そのままの仕草で、スープをひとさじ掬うと、すぅと吸いこんだ。
コーンスープに浮かべたとうもろこしの粒が待瀬の口の中へと完全に吸い込まれたのを見て、「口に合いますでしょうか」と、多少、ふざけ気味に言った。

待瀬は首を縦に振る。

「すごく美味しい。
私、家で働いている料理人の顔とかわからなくて…。
だから、どうゆう人が私の為に料理を作ってくれていたのかわからなかったの。
でも、こうして身近な人にご飯を作ってもらう事って始めてだから、嬉しくて。」

簡単に作った料理なのにここまで褒めてもらえると逆に気恥かしくなる。
それにしても、こいつも色々大変なんだなぁ。
普通、飯って人との精神的な距離を縮めたりするための物なんだけどなぁ…。

次に待瀬は、フォークを持ちじゃがいもに手をつける。