ピンポン球の密室(直美シリーズ2)
「でも、それは、簡単に謎解きできそう」
「ほぅ、それは、興味深いね」
「その、最後に確認するときに、本物かどうか、カヴァリの人に鑑定してもらうんじゃない?」
「ほぅ、鋭いね」
「その時に、すり替えられたのよ」
「なめてもらっちゃ困るね」
「えっ?」
「老いたりと……いや、老いて円熟味を増すのが刑事ってもんだ。それは、真っ先に考えて、十分に目を光らせていた。神に懸けて誓うよ。その瞬間のカヴァリ社員によるすり替えはありえない」
私は、直美の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「そして、付け加えると、最後に鑑定したのは、いつも、津鞠社長その人であった」
「社長さんが?」
「あぁ、そして、君は、もう1つの謎についてはどう考えるんだい?」
「もう1つの謎?」
「どうやって真空水晶球の内側にサインしたか?」
「そんなの簡単よ。真空水晶球を2つに切って、サインして、また、貼り付けるだけでしょう?」
「それじゃあ、ダメなんだ。貼り付けるって言っても、どうやって貼り付けるんだい? 接着剤のようなものを使えば、切断面も接着剤も丸見えだ」
「溶かして貼り付けるっていうのは?」
「ガラスならできるかも知れないが、これは水晶だ。それと、もう1つ。光学的な方法で調べたんだが、サインされた後も、真空水晶球の中は真空のままだった」
「と、なると……」
「内部へサインして元に戻す作業は、更に大がかりにならざるをえない」
「その場で、ギコギコやるわけにはいかないわね。少なくとも、すり替える以外に……」
「何にだって、懸けられる。それは、ありえない」
「……サインされた後、真空水晶球の中を光学的に調べたって言ってたわね。他に、何か入ってなかった?」
「良くわかるな。『自慢のダイヤの指輪でサインを残します』という言葉を裏付けるかのように、ほんの微量のダイヤモンドが検出された」
「サインされる前には調べた?」
「そんな必要がどこにある?」
「それから、事件の後、カヴァリに『どうしても、真空水晶球が必要だ』と言われて、1度だけ貸し出さなかった?」
「良く分かったな」
「なるほどね。加工もダメ。すり替えもダメ。と、なったら、本当に、中に入って書くしかないでしょう」
作品名:ピンポン球の密室(直美シリーズ2) 作家名:でんでろ3