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金色の目

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 二人が隣家について調べた結果、かの家は士族の血を引く一族であり、政界との繋がりも深いものということが解った。伶と違い、そちらに進出するつもりもたっぷりとある、ずいぶんと血気盛んな家らしい。華族や著名人との繋がりをつけるため、伶の敵と結託をしてもおかしくはなかった。
 ここまでは簡単に調べと推測がついたのだが、これ以上となると、すぐには無理である。曽馬たちによる詳しい情報を待つ間、じゃあちょっと本人を見に行ってみようか、ということになった。幸いにして、名目はある。お隣からの、おすそ分けのお礼だ。
のこのこと出向いた隣家で、思いがけず当の本人と対面した渓都は、のらりくらりとした当主の本心を探るべく、雪とかの家の男子との交流を、ほのめかしたのである。
 お宅のお子さんは、うちの召使いとも仲良くしてくれているようで、この間も「気をつけろ」と言っていただいたそうですよ。――何を、とはさて、子供のことですからね。私どもには解らないこともあるのでしょう。
 普段の渓都からは絶対に出てこないような、丁寧かつ嫌味のこもった言葉の数々だ。隣家の当主真幸は、顔色ひとつ変えなかったが。
彼は客が辞した後、子供を呼び出し真偽を確かめている。隠れていた和馬と共に、渓都がそれを見る、というのが現在の構図であった。
「隣に住んでる年の近い女の子が、厄介ごとに巻き込まれそうになってる。それを見過ごせない、ていうのは解るよ。けど、僕らには僕らの仕事があるんだ」
「仕事だったら、何してもいいって言うのかよ。子供は口出すなって?」
 冗談じゃない、とばかりにそっぽを向く男子に、真幸は先ほどよりも楽しげに笑いかけ、子供の腕を軽く叩く。
「すねないでよ、砂成。誰もそんなこと言ってないから。ただ、隣に言う前に、一言こっちに相談して欲しかったなって、言いたいだけ。突然ご近所さんに君の話をされて、僕も成美もびっくりしたんだから」
(おい、成美って誰だよ渓都)
(さぁ。でも俺が行ったとき、女の人もいたから、その人じゃない? 何か当主とすごい顔が似てて・・・・・・双子かな?)
 隠れている二人のひそひそ話は、相変わらず気付かれてはいないようだ。しばらく真幸から男の子供、砂成への説教らしきものは続く。当主はとにかくにこやかな男で、話している間ずっと笑っていた。これでは説教をしたところで、あまり通じないのではないか、と和馬は思う。
砂成にも、どこか呆れた気配があった。注意を受けながらも困惑の表情で、終始保護者を見上げているのである。
「じゃあ、あんまりお前を独り占めしてると、成美がすねるから、この辺にしとくね。けど約束して。不満があったら、必ず大人に言うこと。思い通りには行かないかもしれないけど、悪いようにはしないから。いい?」
「・・・・・・解ったよ」
 男子はしぶしぶ当主と指切をすると、ため息をつきながら部屋を出て行った。残された真幸は、造りのよいソファに腰掛け、ゆったりと体を休めるようである。
もういいだろう、と見ていた二人は目配せをし合い、去ろうとした。その時、ソファにもたれかかっていた男の目が開き、渓都のものとかち合う。
「何、もういいの? 僕の疑いは晴れたかなぁ」
 紛うことなき、隠れている探偵達へ向けた言葉に、二人はぎくりと体をこわばらせた。口調から察するに、ずいぶんと前から存在に気付いていたらしい。
「別に怒りはしないよ、お隣さん。僕も、君のところへは失礼をしたんだから、これでお互い様だよね。ねぇ、話をしない? 僕そっちの人は知らないんだけど」
 和馬のことも知られている。実際に姿を見られた渓都が、ちらりと相棒を窺うと、彼も仕方がなさそうに肩をすくめた。部屋に真幸以外の者がいないことを確かめたのちに、二人は外壁を越える。大窓の開け放たれた隣家のサンルームへと、足を踏み入れた。
「いらっしゃい、渓都さん。こんなに早く再会できるとは、思わなかったよ」
「そう。俺は割とそのつもりだったけど。――いつから気付いてた?」
 渓都の固い口調に、真幸は肩をすくめるのみで、答えを返すことはなかった。
「前から変だとは思ってたんだよね、お前んちって。時々家族じゃない奴が出入りしてるし、隣に住んでても全然会わないし。なのに突然おすそ分けって、どう考えても怪しいじゃない。雪は最近雇った子だから、不審には思わなかったみたいだけど。そんなことも気付かなかったの?」
「言うねぇ。けど、僕にも考えあっての行動だったんだよ。とりあえず、座らない? 別にとって食いやしないから」
眉をひそめたまま、渓都は勧められたイスに腰掛ける。臆していると思われるのが癪なのだろうか。外に聞こえそうなほどの音を立てたため、和馬はひやりとした。
「さ、あなたも遠慮しないで。あいにくとお茶は出ないけどね。ところであなたは誰なのかな。この人の友達? 巻き込まれただけなら、これからの話は聞かない方がいいかもよ」
「そいつは同僚。関係者だから、ちゃんと聞いててもらわないと困る」
 先手を取って宣言する渓都には、有無を言わさぬ調子が見て取れた。余裕がなさそうにも見えるのだが、親しい者から見れば、単に苛立っているだけだと解る。普段ののんびりとした様子からは予想がつきづらいものの、彼は案外気が短い。
 突然の来客の心境を解っているのかいないのか。真幸は相変わらず笑みを浮かべ、彼らを眺めていた。
「そうかぁ。ならこのまま話すけど、君らは僕たちのこと、どこまで知ってるの?」
「元士族で、その地位を取り戻そうとしてるらしいじゃねぇか」
 渓都の隣に座った和馬が、さりげなく口を開く。真幸の視線が彼へと移ってきた。
「そうだよ。無理もないことだと思わない? 僕のような才覚あるものが仕官しないなんて、国の損失だよ」
「人の意見はそれぞれだな。俺は別に興味ねぇよ。やりたいんならやってりゃいいし。俺らはただ、火の粉が降りかからなきゃいいんだからな」
「かけたつもりはなかったけど。君らが来なかったら、そのまま消えてたんじゃない、その火の粉」
 しゃあしゃあと言う若当主の顔に、刃のように鋭い視線が突き刺さる。元を辿っていくと、彼以上に若い探偵に辿り着くのだが、年長者の貫禄か、笑顔はびくともしない。
「子供に預けたのは、悪かったよ。けど君、日中はいないじゃないか。夜に他人の家に突然おじゃまするのは、失礼でしょ」
「そうだな。下心がなきゃ、完璧な心遣いだぜ」
「言ってくれるね、お兄さん」
 肩をすくめた真幸は、笑みを緩めはしたものの、雰囲気は変わらなかった。変わらず彼のペースが保たれている。
「下心は、君達に向けられたものじゃないよ。あるとすれば依頼主にさ。それだって仕事の一環だ。責められるいわれはない」
「どんな仕事だ?」
「うん、この人の家との繋がりをつけたいから、そのきっかけみたいなものを作れって。ま、今のところはそれだけだね。けど、いきなり依頼人の名を聞いてこないところを見ると、君もなかなか解ってるね」
 上目使いに誉め言葉を呟かれた和馬は、うめき声を上げながら、頭をかき回す。
「お前がそれを言っちゃ、お終いだろ! ったくこれだから、上の奴ってのは嫌なんだ」
作品名:金色の目 作家名:わさび