覇王伝__蒼剣の舞い1
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蒼国領内を西へ、周囲の景色は次第に様変わりしていく。
赤茶けた大地と岩山、王都で見かけるような家はそこにはなく、煉瓦と石の飾り気のない四角い家が点在している。
住人たちは見慣れぬ来訪者に眉を潜め、警戒を露わにした。
「僕たち___歓迎されてないみたい…」
焔が、笑顔を引きつらせた。
「ここは、無国籍地帯だからな」
「無国籍地帯?…って、未だ蒼国領内じゃ」
「いや、もう抜けたよ。蒼国は四国ではそんなに大きくないからね。昔は、東領も他三国並に広かったが」
星宿の説明に、拓海はゴクリと唾を呑んだ。
「___あんたら、何者だ?」
「吾たちは怪しい者じゃありません。赤の谷を目指しているんです」
「赤の…谷だと?」
「何か、余計刺激しちゃったみたいですよ、白虎さま」
焔も、さすが余裕なくしたのか笑えなかった。
住人の中には、いかにも腕の立ちそうな者も多くいる。先を急ぎたい彼らによって、ここは容易く通過できる場ではなかった。
「あんたら…、白い連中の仲?か?」
「え…、いえ。蒼国から来ました」
「蒼国だと…」
「吾たちは、あなた方を侵すつもりはありません」
「_____その男の云う通りだぜ」
背後から掛かった声音に、一同は振り向いた。
「よぉ、馬に乗れるようになったようだなぁ」
大柄な初老の男が、カッカッカッと嗤う。
「ドン・レオンシャーク!?」
そこに、あの蒼龍候補騒動以降姿を消していた男がいた。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍