覇王伝__蒼剣の舞い1
____貴方は、前覇王の息子です。
そう云って、叔父である玄武の狼靖が唐突に切り出したのは七年前の事だった。
幼い頃、母・桜に何度か父は誰なのか聞こうとして結局聞けなかった父の名。
清雅は、何を今更と答えたのだ。
その当時は、蒼国は未だ建国されたばかりで王も不在で、清雅は未だ四獣聖の蒼龍として黒抄の勢力から蒼国を護って戦う一人だった。
その時に狼靖が差し出した一振りの剣。
それが、蒼剣だった。
蒼剣は、七年前まで覇王家にあり、二人の兄弟に渡るくらいならと後の紅王とある凌姫が狼靖にこっそりと渡したのだ。
その蒼剣が、清雅の前で激しく蒼い閃光を放った。
狼靖の言葉は、その後の事だった。
蒼剣は、覇王となる者を選ぶ意思をもつ。
前覇王の子供たちの中で、蒼剣が選んだのは彼の四番目の息子、清雅だった。
清雅は、覇王家を知らない。
普通の平民の家に、平民の子として生まれ育った。母の死後、戦場で育つ羽目になったがそこでも彼は覇王家とも前覇王とも無関係に過ごした。
その清雅を蒼剣が選んだ___異母兄たちの逆恨みはいい迷惑である。
今でも清雅は、覇王になるとは思っていない。
蒼剣が自分以外の者を選んでいたとしても、異母兄たちのように奪おうとも、実力で認めさせようとも思わない。彼は唯、母が望んだ平和な静かな暮らしをこの四国に取り戻したいだけだ。それ以外はどうでもいい。
それなのに、だ。
「ドラゴンの遺産の在処__だぁ?」
前覇王が隠したと云うそれを、清雅は知っていると頭巾の男は云う。
一度も会ったことも話した事もない父から、どうやって知るというのか。
馬鹿馬鹿しさに、思わず嗤う。
「何が可笑しい…?」
「知るわけねぇだろ。何勘違いしてんだ?聖連は」
「蒼剣が現れれば理解る」
「なるほど、ね。俺を生かしておくのはその為か。蒼剣も前覇王の手にあったからな。何らかを知っていると踏んだか。それには四獣聖を集める必要がある。あの時のようにな。違うか?」
「…吾らの企みに気付いていたか」
「ここに連れてこられる前にな」
清雅は、磔の状態にありながらもニッと不適な笑みを放つのだった。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍