覇王伝__蒼剣の舞い1
コツコツと、足音が行き交う。
手に鎗を持ち、白い衣の二人の男だ。
周りは、煉瓦の壁に囲まれ、明かりは壁の篝火と彼らの持つ松明だけのようだった。
___ご丁寧な事だぜ…。
木枠の格子の内で、彼は己の置かれている状況に軽く嗤った。
見張りは二人、格子は鉄ではなく今時珍しい木製の十字格子。逃げるのは簡単だ。いつもの彼なら。
彼に、逃げる気はない。そういう言葉は、彼は嫌いだった。
視線を、落とせば太く頑丈そうな鉄の鎖が地面と、更に天井の梁に伸びていた。
___聖連、この落とし前きっちり返させてもらうからな…。
何処かで、ほくそ笑んでいるであろう男を脳裏に浮かべ、彼は唇をキリッと噛んだ。
そんな彼に近づく、白ずくめの男。
「___気分は?蒼王」
「良いわけねぇだろ。この状況で」
「未だ随分余裕があるようだ」
「よく調べたな。俺の動きを」
「ふふ、簡単な事だ」
深く被った頭巾から、唇が除く。
「俺をひと思いに殺さねぇって事は、何かあるって事だな。聖連は何を企んでやがる?」
「あの方は、覇王になる方だ。蒼剣が、何故お前を選んだのか理解らぬ。例え覇王家の血を引いているにせよ、お前のような男を何故…」
「ふん、俺が聞きたいぜ。お陰で、面倒が次々起こってしょうがねぇ」
「ますます、理解らぬ。まぁいい。蒼王、吾が聞きたいのは『ドラゴンの遺産』だ」
「ドラゴンの遺産?」
「聖連さまは、お前が何らかを知っていると思われている。前覇王が隠したというドラゴンの遺産の在処を」
おいおい冗談じゃねぇぞ。
清雅は、初めて聞く言葉に、愕然となった。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍