覇王伝__蒼剣の舞い1
星宿、狼靖は未だ寝付けぬ夜を過ごしていた。
いつも賑やかな焔も卓で頬杖を付き、窓の外を眺めたままだ。
何も起こらなければ動きようがない。こんなに、嫌な感じがするのに。
「父上っ!!」
「…拓海」
勢いよく飛び込んできた息子に、狼靖が驚きの顔をする。
「父上、僕は…とんでもない事をしました」
「何があった?清雅さまはご一緒ではないのか?」
嫌な不安は、更に増していく。
「…僕の所為で…」
「拓海っ、詳しく話せっ!!」
「玄武さま、そう責め口調では可哀想です」
「僕は、白い影に操られて、龍王剣を…」
「___要するに、彼らに渡してセイちゃん大ピンチって事でしょ」
「…っ」
「この大馬鹿者っ!!」
滅多に声を張り上げぬ狼靖が、拓海を怒鳴った。
「玄武さま、拓海は自分の意志でやったのではありません。彼らは、清雅さまが油断する相手をよく知っていたんです。玄武さまでも吾でも焔でもなく、この騒ぎに誰を連れ出すかも」
「___まさか、例のスパイか?」
「ええ、考えれる人物はそれでしょう。王都を選んだも手の一つ。四獣聖の力が一つに集まれば多少なりとも周囲に影響します。彼らはそれを利用したんです。清雅さま一人を誘い出す為に。そしてその共に、拓海を選ぶ事も計算して」
「…急いでくださいっ。清雅さまを…早くっ」
彼らは、王都に急いだ。
謎のスパイの、巧妙な手だった。
清雅の性格を熟知し行動を読み、罠を仕掛ける。
しかし、そこにはもう白い影の姿も清雅もいなかった。
「…そんな…」
座り込む拓海。
「清雅さまは生きているよ、拓海」
「星宿さま」
「僅かな血痕しかない。致命傷というほどではない」
未だ乾ききっていない血を指で触れながら、星宿は判断した。
その一方で、狼靖は何かを見つける。
尚武邸の外壁に食い込んだ一本の矢、そこに結ばれる文を。
「___赤の谷?」
文には、その一言のみ。
これも、罠だろうか。彼らの狙いが理解らない。
「行くっきゃないでしょ。多分、セイちゃんそこだよ」
「僕も行きます!連れて行ってください」
「行こう、拓海。吾たちの王の元へ!」
彼らは、一路赤の谷を目指した。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍