覇王伝__蒼剣の舞い1
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それは、ユラユラと赤い光を放っていた。
小石ぐらいの小さな貴石(いし)。
早ク…、早ク…。
姿なき者の声が、彼には聞こえた。
「___もうすぐだ」
金髪で顔半分を隠した男が、唇を妖しく歪める。
___もうすぐ、一族の悲願が叶う。
赤い石は、一層光り輝き再びユラユラと光を揺らした。
「___日影さま」
「手はず通りにな」
「黒抄に、情報を?」
「ふふ、聖連さまの仰せだ。黒抄には、暫く時間を稼いで貰えとな」
金色の眸を細め、日影は視線を鏡の中に注ぐ。月夜の蒼国・王都、王城から最も離れた邸。
数人の影が、ゆっくりと動く。
___ガタン。
「清雅さまっ」
「お出でなさったか…」
外の気配に、清雅は窓際に張り付いている。
「白い影…」
「拓海」
「は、はい」
「お前はこれから、尚武と城に向かえ」
「清雅さまは、どうすんです?剣がないのに…」
「心配いらねぇよ。奴らの狙いが読めたからな」
「狙い…?」
「奴らの狙いは蒼剣だ」
「清雅さまっ!!」
角に落ちていた金棒を手に飛び出す清雅に、拓海は直ぐには動けなかった。清雅は、剣を持っていないのだ。いくら彼でも、白い影には勝てない。
「早く行けっ!!」
「拓海さま、こっちです」
「でも、清雅さまが…っ」
___貴方は、貴方のできる事をすればいいんですよ。無理なく、精一杯の事を。
尚武に云われた言葉を思い出して、拓海は唇を噛み締めた。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍