覇王伝__蒼剣の舞い1
キンッ__。
金属がぶつかる音が、響く。
「お怪我は?玄武さま」
銀髪に碧眼の青年が、狼靖父子の盾となった。
「白虎がいるという事は…」
その前方で、数十人相手に剣を振るっているもう一人の男に、狼靖はやっぱりと呟いた。
「ち、父上、白虎ってもうしかして…」
「おや?玄武さまのご子息ですか?」
「四獣聖の白虎…さま?」
銀髪の青年は、にっこりと微笑んだ。
「おい、白虎。まさかそこで見物しているつもりじゃねぇだろうな」
「勿論ですよ、清雅さま。ただ、ここを離れるとお二人が危険かと」
「心配いらん。その男は元玄武だぜ。なぁ?狼靖」
「元は余計です」
それは、鮮やかなものだった。
拓海の尊敬する四獣聖の内、二人が揃い、更には口は悪いが彼らを凌ぐ剣捌きの男が加わって、形勢は瞬時に逆転した。
「…吾は運がいい」
「そりゃぁよかったな。俺は、ついてない。この一月で何度狙われたか。お前の主人の執念深さの所為でな」
「執念深さでは貴方も負けてませんよ、蒼龍の清雅さま。あぁ現今は蒼王でしたね」
「ふん。嫌味は健在だな」
闇己が振りかざした剣は、宙を舞い、地に刺さった。
「吾々は、諦めませんよ」
「今度は、その口引き裂いてやる」
舌戦では負けていない清雅に、闇己は踵を返した。
唖然とする拓海を前に、狼靖が声を上げた。
「…清雅さまっ、今度は何をやったんです」
「お前まで、人を犯罪者扱いか?狼靖」
「充分、前科がありますので」
清雅は、めんどくさいと云わんばかりに髪を掻き上げた。
そんな清雅に、狼靖の息子・拓海は未だ唖然としている。
年長の狼靖に上目線なのは勿論、よほどの悪行を重ねたのか前科もちと云う四獣聖・蒼龍。
拓海の四獣聖への印象を一気に崩しかねないこの男の存在が、後に拓海を変えていくとはこの時拓海は知る由はなかった。
だが、ここに蒼龍、玄武、白虎の四獣聖の内三人が揃ったことになる。
目指すは同じ、蒼国・王都。
「___瑠邑(るおう)さま」
「陛下は、お帰りになられたのか?」
「いえ、未だお戻りにはなられておりません。ですが、そろそろ重臣の方々が御騒ぎになりましょう。陛下が城を御開けになるのは今に始まった事ではありませんが、今回は少し遅すぎます。黒抄の黒王さまの動きが、この期を逃しはしないでしょう」
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍