覇王伝__蒼剣の舞い1
「…ばかな…」
遠い位置で、紅王と共にいた白碧の男が唇を噛んだ。
紅王はただ黙ったままだ。赤銅色の甲冑に兜を被り、その表情は理解らない。
「申し上げます」
「何だ、こんな時にっ」
「伯爵に逃げられました」
「な…に」
「突然、自由戦士風の男と女に侵入され…」
それを聞いた紅王が、静かに踵を返す。
「どちらに行かれる、紅王さま」
「もはや、この戦、無意味。吾が国にとっても、白碧にとっても」
深紅のマントを翻し、紅王は離れていった。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍