覇王伝__蒼剣の舞い1
同じ頃、男は躊躇っていた。
瑠璃色に輝く甲冑を纏い、後は剣を手にするだけとなって。
「父上」
「拓海か」
「玄武に復帰されるんですね」
「拓海、吾は未だ迷っている。七年前、吾は剣を封印し引退した身だ。今更とな」
「でも、父上しかいません。僕は、父上に憧れて剣を覚えようと思いました。それに、その姿僕は好きです」
「おい、小僧。俺の存在忘れちゃいねぇだろうな」
「レオンシャークさま、その姿で?」
完全武装とは言い難いレオンシャークの姿に、拓海は絶句した。
「当たり前だろうが。俺たちはこのままでこれまで戦ってきたんだぜ。第一、小龍があれじゃぁな」
「……」
清雅はもう、剣は使えない。
そう聞かされたのは、つい三日前のことだった。
清雅を診た医師の判断だという。
だが、落ち込み悲観している場合ではない。
「父上、僕も行きます。止めたって行きますからね」
「よぉ、二代目」
レオに冷やかされても、拓海の決意はもう固まっていた。
____僕は、玄武になる…!彼の下で。
四獣聖を初めとする蒼国軍は、国境を目指し王城を経った。
__白旗上げたい気分。
国境の蒼の谷に着いた朱雀の焔が、思わず呟きそうになった。
どう見ても、武があるのは向こうだからだ。
「聞いてないよ…。こんなの…」
紅華国精鋭はほんの数人、数十の軍勢は白い衣を纏った者たちだったからだ。
「白虎さま、これは…」
「白い影と呼ばれる、白碧国の裏の精鋭だ」
「白い影?」
「白碧の白王さまは、術使いだと云われている」
「もしかして…」
「剣なんて役に立たないって事」
拓海の問いかけに、焔が答えた。
「白碧も動いたとなると、厄介だな」
「もっと厄介なのは___」
狼靖の脳裏に、嫌な図式が浮かび上がる。
三国が共同戦線を組み、蒼国を狙うと云う図式が。
元々、四国を揺るがす事になったのは、覇王亡き後の覇王家兄弟の確執からであった。
彼らの性格を知る狼靖には、三人が手を組むとは考えられないのだが。
「来るよ」
焔の声と共に、白い軍勢が向かってきた。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍