覇王伝__蒼剣の舞い1
嘗ての南領__、紅華国(こうかこく)領内。
大地を、数頭の馬が疾走していた。
先頭を行くのは、赤銅の甲冑を身にまとう長身の人物。
そんな行く手を、突然人影が塞ぐ。
「何者か!?」
「そちらは、紅王陛下にごさいましょうか?」
白い頭巾を深く被り、口だけを覗かせた男が先頭の人物に問いかける。
「___そなたは、何者か?」
「白碧の者にございます」
「白碧?あぁ、あの聖蓮の」
兜越しに、紅王は言葉に嘲りを混ぜる。
「吾が王が、貴方様にお会いしたいと申しております」
「例の話なら無駄だ。白碧とは組むつもりはない。勿論、黒抄ともな」
「吾が王は、争いを一日でも早く回避しようとしております。前覇王陛下の御心のままに」
「聖蓮も、蒼剣が目当てか?」
「四国安定には、必要なものにございます。何卒、ご協力を」
「__何をしよと?」
「簡単な事でございます。紅王陛下ならば」
男は、ニヤリと嗤って鏡を差し出す。
映し出される光景に、紅王の側近たちが息を呑む。
「暫く、シュウイ公爵さまにこちらに来て頂く事に。覇王家側近でらした公爵さまにとりまして、吾が王とは八年ぶりの再会。白王陛下は、以前のように手を取り合い、国造りをと望んでおります」
シュウイ公爵は、紅王にとっては母方の叔父である。
「__ようは人質か。この吾を陥す為の」
「人聞きの悪い事を…」
男は、クククと嗤いながら鏡面を撫でる。
同時に、紅王の剣が宙を斬った。
被り物が外れ、金髪が風に靡く。
「___やはり、お前か。聖蓮」
「ふふ、話し合いをしているのに剣を振り回すとは危険な方だ、義姉上」
義姉上をやけに強調させて、白王・聖蓮は再びニヤリと嗤う。
「吾の目に狂いはなかったようだな」
「何のことか…。それよりも義姉上、吾自ら来たのだ。よい返事を期待していますよ」
「___蒼剣を奪え、か?」
「蒼国に警戒される事なく、入れましょう?貴方はあの清雅をたいそうかっていらっしゃる。それに今の清雅なら、簡単な事」
「なに…」
「云っている意味が理解らぬ貴方ではないかと、義姉上」
聖蓮は、その笑みのまま、すうっと消え去った。
「陛下、今の方は…っ」
「____何もかもお見通しと云う事か…。聖蓮め」
赤銅色の兜の奥で、ぎりっと唇を噛む紅王であった。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍