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覇王伝__蒼剣の舞い1

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 冷たい月下の王都___数人の黒ずくめの人影が駆けていく。
 「おい、ありゃ…」
 「…黒抄国の人間だっ」
 「城に、城に知らせろ…」
 突然現れた彼らに、王都はパニック寸前に陥ちた。
 黒抄の精鋭が、再び蒼国領内に侵入した___。
 予想はしていたものの、状況はかなり悪い。
 王都の人びとを巻き込む事になるのは勿論、それは断じて避けねばならない。更に、四獣聖として戦えるのは___。
 「こんな時に、厄介だな」
 「そんなモン、やつければいいでしょ」
 「吾とお前だけで?朱雀」
 「しょうがないでしょう。玄武さまは、実戦から遠のいてるし、セイちゃんは動けないし。いやこの場合、セイちゃんが動くともっとヤバイと思うけど」
 「確かに、清雅さまの状態ではな」
 清雅は牙の村での刺客との戦いで重傷、とても動ける状態ではない。
 「問題は、王都に来させない様にする事でしょ。白虎さま」
 「民が巻き添えになるからな」
 「敵は、それが理解ってる。セイちゃんを誘き出す為に、態と場所と人を選んでる」
 「だからこそ余計に、清雅さまには知られてはならない。今回は」
 思案を巡らす白虎の星宿と朱雀の焔。
 王都を二人同時に離れる事もできず、況してや騒ぎになれば清雅は間違いなく飛び出す。
 「____大変ですっ」
 「今度は何だ」
 「それが、拓海さまが未だお戻りになってません」
 「最悪」
 「何処に行かれたのだ?」
 「恐らく父上様の所かと」
 「玄武さまの邸か?玄武さまは今、王都にはいられないんだぞ」
 「それって___」
 焔が、恐ろしい想像をしたのを星宿は見抜いた。
 玄武の浪靖は、ある人物を頼ってみると蒼国を離れていた。その事を、拓海は知らされていないのだ。
 敵の狙いは____。
 「拓海が危険だ…!」
 蒼剣を清雅に渡した浪靖、黒抄国主・黒王が許すはずがない。拓海は、その息子なのだ。
 「ちょっと、マジでヤバイ。馬から間に合うかも知れないけど」
 「……」
 浪靖の邸は、王城から走っても一時間はかかる。星宿も朱雀も、未だ乗馬の経験だけはなかった。
 いや、一人だけいる。
 しかし、それは危険を増幅させる結果にしかならない。
 四獣聖結成始まって以来の最大のピンチに、さすがの星宿も名案が浮かぶことはなかった。
 「____いったい…何の話だ…?」