覇王伝__蒼剣の舞い1
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____はぁ…はぁ…。
漆黒の闇の中、一人彼はいた。
血塗れの剣を構え、ボロボロの躯を必死に保ちながら。
相手は、何人いるのだろう。
闇の中はとても不気味で、蠢くものは何一つ見えない。
もはや、誰と戦っているかすら理解らない。
未だ十代の少年にとっては、過酷な世界。
慣れている筈なのに、伝う汗はどうしてこんなに冷たいのか。
____止めてしまいなさい。
闇の中から、聞こえてくる女の声。
「母さん」
____私たちは、静かに暮らしていたいだけ。剣なんて必要ないわ。
「でも、母さんは剣を大事に抱えていたじゃないか」
____そう、でもその為に何が起きたか理解るでしょう。剣は所詮、命を奪うだけのものよ。だから____、もう自由になりましょう。清雅。
「自由…」
____そう、昔に戻るの。なりたかったんでしょう?自由に。
平和だったあの頃に。
闇から伸ばされる手に、少年・清雅は一歩を踏み出す。
だが、その歩は母の声とは逆。
____俺は。
逃げるわけには、いかない。
その為に、剣を手にした。母と自分の運命を変え、更に運命を変えさせられた剣を、彼は手にした。
命を奪うかも知れないが、剣は守りにもなる事を知ったから。
____こんな所で、終われねぇ…!
清雅は、伸ばされる手を取った。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍