覇王伝__蒼剣の舞い1
黒抄・王城。
回廊を進む男を、やや嘲りを含む声が止めた。
「黒抄二武将と称される貴殿も、老いたものだな。蒼王の息の根を止め損なうとは…!」
「___人の事より、自分の心配をしたらどうかな?闇己どの。貴殿もその二武将だと忘れておるまい。悉く暗殺に失敗、蒼剣も奪えない。黒王陛下はさぞ憤られているだろうよ。それが何を意味するか、理解らぬでもなかろう?」
「…義勝…っ」
闇己の顔が、屈辱に彩られていく。
彼は、追い詰められていたのである。二武将に上ったものの、黒王の信頼はもう一人の二武将・義勝にあった。
しかも、蒼王暗殺は悉く失敗、精鋭隊の数を減らし、益々黒王の信頼は闇己から離れていく。
「もう一つ忠告しておこう。あの蒼王、とんでもない男かも知れんぞ。蒼剣がそこまで見抜いたか知らんが」
「怖気づいたか…」
「理解らなければいい」
左肩を痛々しく吊って、義勝は闇己を一瞥して去った。
___このままでは。
用済み、役に立たぬと知れば二武将の地位はおろか、命の保証はない。黒王はそういう男であった。
だが、今なら。
「___精鋭を数人集めろ」
「数人でございますか?将軍」
「そうだ。蒼王は義勝どのと戦って深手を負った。そんな相手に、数人で十分だ」
勝てる、今度こそ。
闇己は、表情を自信に変え、馬に跨った。
同時刻、牙の村にまた人影があった。
大柄な初老の男が身を屈め、訝しげに見つめる先に真新しい血がある。
「首領(おかしら)」
「どうやらここで、何かあったようだな」
「何かって?」
「さぁな。これだけの血で死体もないんじゃ、生きていても相当なモンだぜ。しかし
、よりによってこの場とはな」
「以前に、来たことがあるんで?ドン・レオンシャーク」
「昔な。拾いモンをしたのさ」
男は、そう云って懐かしそうに荒廃した景色を見渡した。
「で、これからどうします?この蒼国領内に至って戦は起こらねぇですよ」
「いや、先ずは会いたい奴がいる。この国にいる筈だ」
「誰なんで?」
「小龍(ショウロン)だ」
「はぁ?」
云っている意味が理解らぬまま、数人の群れがドン・レオンシャークに続く。
だが、この時彼も知る由もなかった。
無意識の内に、蒼剣に吸い寄せられていた事を。
そして____、
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍