覇王伝__蒼剣の舞い1
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___母さん!
家に飛び込んでくる子に、母親は振り返った。
「まぁ、清雅。またそんなに汚して」
「あいつら、弱すぎ。剣士がだって自慢して歩いてるけど」
「まさか、自分から挑んじゃいないでしょうね?」
「そんな事してないよ。向こうから、掛かってこいって云ったんだ」
時に清雅十歳。
牙の村の、ごく普通の平民の子として育っていた。
母の名は桜、父は不明。
いや、知らないのは清雅だけだ。
ここ一年、世情は不安定であった。
覇王が死去し、覇王家は誰がその後を継ぐか決まらず、四国には主がいない状態だった。
そんな中で、剣士と称される者たちが四国中を暴れ回り、中には力にものを云わせて威張る者もいる。
そんな幼い清雅には、気になるものがあった。
母・桜が大切にしている一振りの剣。
ごく普通の平民の家には不釣り合いな、必要のないもの。
後に、それが清雅の運命を変えるとは思う由もなく。
「これはね、貴方のお父さんから託されたものなの」
桜は、そういっていつも愛しそうに抱きしめるのだ。
いったい、その父は何処の誰なのか。
「確か、叔父さんがいるんだよね」
同じ平民だと云うその叔父は、平民でありながら剣士となり、玄武と云う剣士最高の地位に上ったと聞かされた。
今の清雅にとってはその叔父も、実父と同じく遠い世界の人間でしかない。
桜自身、息子に剣の道を歩ませるつもりはなかった。
この時は唯、穏やかに暮らしたい、それだけだ。
それなのに。
「___強くなったな。あの時の子供が」
義勝は、清雅の剣を交わしながら肩で息をしていた。
「降参か?」
「まさか。黒抄二武将の吾を甘くみるなでない、蒼王。いや、清雅」
「上等だぜ」
必死に駆けた草原、今はもう枯れ果て面影はない。
桜、清雅の母子の穏やかな生活は、突然村に現れた男たちの手によって破られる。
未だ黒王となる前の黒狼と、そして義勝によって。
彼らの狙いは、母・桜が持っていた剣。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍