覇王伝__蒼剣の舞い1
黒抄・王城__。
天下争奪に人一倍燃える男は、機嫌があまりよくない。
蒼王暗殺に送り出した精鋭が、悉く返り討ちに合い、蒼剣も未だ奪取していない。
そもそも、蒼剣が蒼王に反応したと聞いた七年前から彼の憎悪と野望は成長を始めた。
覇王家の出自でもなく、前覇王の息子と云う地位や身分に拘らず、王となっても自由人のまま。そんな男を何故、蒼剣は選ぶのか。
これまで力で周囲をねじ伏せ、領土を広げてきた実績よりも劣ると?
「___黒王陛下、白碧の須黒さまがお越しにございます」
「…よう参った。聖蓮は息災か?」
「はい。我が主は、黒王陛下が覇王となられるのを楽しみにしておいででございます」
「…あの聖蓮がな」
「ならば、吾を黒王陛下の元に行かせませぬ」
「聖蓮はよい心掛けよ。どこぞの誰かに見習わせたいものだ」
「新たに、弓と鎗、その他諸々運ばせておきました。陛下、あの御約束決して違えられぬよう」
「よほど未練があるとみえるな、蒼剣ほどの価値もない剣一振りが」
「剣を持つ者にとりましては、魅力なのでございます」
「ククク、それでちゃっかりと覇王軍をも手に入れるか?だが、そうなると四獣聖が黙っていまい?白虎に玄武、朱雀がな」
「四獣聖は、過去の存在。七年前に四散し、今いるのは蒼王さまの蒼龍と白虎の星宿。玄武は、七年前以降剣を振るっておりません。朱雀の焔も覇王陛下逝去より姿を見てはおりません。例え、四人揃う事がありましてもその前に一人でも欠けていれば、四獣聖など敵ではありません」
「恐ろしきは、蒼王と云う事か?あの野育ちが、それほど強いとは思わぬが」
___貴方は、何も知らないのだ。
須黒は、嘲る男を見つめながら唇を噛んでいた。
彼は、清雅と戦った事が一度だけある。
未だ清雅が蒼王となる前、須黒は彼の前にあっさりと剣を弾かれた屈辱的過去があった。
彼にとってみれば、蒼剣は魅力だがそれを自分のものには思わない。最強の者だけに譲られると云う四獣聖最高の剣“龍王剣”に比べれば。
___蒼王、いや四獣聖の蒼龍・清雅は吾が倒す。今度こそ必ず…!
強い決意を胸に、須黒は黒抄王城を辞した。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍