覇王伝__蒼剣の舞い1
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拓海___当年、十七歳。
四獣聖に憧れ、剣を習い始めたのは十四の時。そもそも、父親の狼靖が元四獣聖だったのと、四国随一と云われる精鋭・四獣聖になる事は剣をもつ者には栄誉な事であった。
覇王の為に盾となり、剣一本で主に尽くす。幼い頃から、狼靖の口癖はそれだった。
勿論たった四年で、四獣聖になれる腕になるわけもなく、拓海にとって四獣聖はまだまだ遠い存在であり、尊敬と憧れの存在であった。
それなのに、だ。
「父上っ」
「何だ、拓海。いきなり」
「あの男(ひと)、本当は何者なんです?」
「もしかして、清雅さまの事か?」
「他に誰がいます?どう見たって変です。絶対にっ」
「お前とは従兄弟だが」
「そう云う意味じゃありません。清雅さまが強いのは理解りました。ただ、口は悪いわ、態度は大きいわ、四獣聖だなんてどう考えても見えないでしょう。普通。しかも、この国の国主だなんて」
「俺に云うな」
「父上が、清雅さまを王にしたと白虎さまから伺いました」
「この国には、王が必要だった。清雅さまは前覇王陛下の血筋であり、それは俺が保証する。妹は、身分が低いと覇王家に入らなかったが、覇王陛下は生まれた清雅さまに四獣聖・蒼龍の証である龍王剣を下賜された。それに恥じぬ腕前になられたし、誰も文句は言わなかったぞ。それに、決定的なのは蒼剣だ」
主を自ら選ぶ伝説の覇剣“蒼剣”___。四国分裂後、黒抄と白碧からの支配に揺れる蒼国を、狼靖も清雅と一緒に守っていた。そんな混乱を鎮めたのは、間違いなく清雅だった。
清雅の腰に下げていた龍王剣が、狼靖が護っていた蒼剣を刺激し、蒼く光った。偶然ではない。
この時点で、狼靖は蒼剣の主ではない。
漸く興奮が鎮まりかけて、拓海は外へ出ようと扉を押した。
それは、扉が開くのと同時。
「そこから動くんじゃねぇっ!」
ドスの聞いた声に、拓海は躯を咄嗟に引いた。
耳元を掠めるものよりも、遙かにその声音は怖い。
何が起こったのか、何故怒鳴られねばならなかったのか。
拓海のすぐ耳元で、壁にしっかり食い込んでいた矢が物語るもの。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍