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覇王伝__蒼剣の舞い1

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 コツコツと、暗い廊下に靴音が響く。
 やがてその音は、一人の男の背後で止まった。
 「義兄上(あにうえ)はまた、失敗したようだねぇ。須黒(すぐろ)」
 「はい。如何いたしましょうか?」
 「どうもしないさ。今、彼に睨まれるわけにはいかないからね」
 クスクスと笑いながら、男は鏡を撫でていた。
 全身を包む白一色の衣に、長い金髪、美声だが何処か冷たく感じられるその口調に、須黒と呼ばれる男は従順に従っていた。
 「ですが___」
 「義兄上には、頑張って貰わないとねぇ。蒼剣を手に入れるまではね」
 「蒼王・清雅さまにかなり手こずっているよし」
 「清雅___ふふ…、久しぶりに聞いたよ。その名。そう、誰が東領(とうりょう)を治めているかと思ったらあの、清雅か。確かに義兄上が、失敗するわけだね」
 「聖蓮(せいれん)さま」
 「面白くなってきたじゃないか。まさか、清雅の手に蒼剣があるのは意外だが」
 「その件につき、手は打ってございます。清雅さまの動き逐一理解るよう」
 「さすがだね、須黒。あの男を使ったか?お陰で義兄上に彼の動きが手に取るように理解る仕組みって事だね。不思議だったよ。何故、義兄上の刺客が蒼王の前に現れるのか。さすがの清雅も、焦っているだろうね」
 「勝手な真似を致しました」
 「謝る必要はない。吾も清雅には死んで欲しいと思っているからね。覇王になるつもりがあろうとなかろうと。彼はいずれ脅威になる。以前の予感がこうも的中するとは」
 笑んでいた聖蓮の唇が、きつく結ばれる。
 彼もまた、伝説の蒼剣を狙う一人であった。
 西国(さいごく)・白碧(はくへき)の国主、聖蓮___北の黒抄・黒王、黒狼の二番目の異母弟にして、清雅の異母兄。
 術に長けた異能の名家を出自とする母の影響もあって、聖蓮はその場にいながらにして相手を観察できる鏡を操る。
 唯、その鏡を以てしても清雅の動きは読めなかった。
 「いっその事、清雅さまのお命を」
 「彼が油断するとは思えないが?」
 「確かに、清雅さまは四獣聖・蒼龍を務める腕。ですが、それは明らかに敵意を以て近づいた場合。黒王さまより早く蒼剣を手にいられますれば、後は恐れるに足りませぬ」
 「それが、お前の云う手?」
 「手の中の一つにございます、我が王」
 「蒼剣と同時に、蒼国も手に入るか。お前の働き、見せて貰おうか?」