覇王伝__蒼剣の舞い1
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東の国・蒼国(そうこく)___。
他三国同様、建国七年と云う新しい国は周囲を山に囲まれた盆地帯である。
唯、三国に比べ領土は小さく、更に黒抄との亀裂によりその脅威にこの国は晒されていた。
それでも黒抄が攻めてこないのは、四獣聖と呼ばれる四人の親衛隊の存在にある。
嘗て、覇王を側で守った彼らが七年後に、この蒼国で復活、その力は例え何千何万の軍勢でも圧倒する。覇王を守ってきたほどの腕は、知らぬ者はない。
「これはこれは、お珍しい」
入ってきた人影に、邸(やしき)の主は顔を綻ばせた。
「偉く嬉しそうだな、尚武(しょうぶ)」
「それはもちろん。四獣聖をまとめて見られるのは奇跡に近いですから。おや、見慣れない子ですね」
尚武と呼ばれた青年は、紅茶をそれぞれの前に置きながらにっこりと微笑んだ。
邸から見ても、かなりの身分だろうと拓海は推測する。
紅茶も、それに使う磁器も高級品だ。
「吾の息子だ」
狼靖が、迷わずそれに口をつけて云う。
「玄武さまの?ということは、次期玄武さまで」
「ぼ、僕はそんな未だっ…」
「尚武、子供をからかうんじゃねぇ」
「僕は子供じゃありませんっ」
「やっぱ、子供だな」
食いついてきた拓海に、清雅がフンと鼻を鳴らした。
四獣聖に憧れる拓海にとっても、四獣聖に直接あえるのは飛び上がるほどの喜びなのだが、それはここに来る前にその印象を崩されかけている。
清雅である。口は悪いわ、態度は大きいわ、その彼が四獣聖・蒼龍と聞いて、今でも信じられずにいた。更にこの先、印象を崩される事になるのは、知らないのは拓海だけだろう。
さて、この邸の主・尚武だが、元貴族の子息であった。
前覇王に仕えていたが、四カ国に分国後、彼の家はあっさり崩壊。唯立ち直りの早さは見事で、忽ちこの蒼国・王都で四獣聖を裏から支える人物になった。
「それで清雅さま、あちらにはこれからお戻りに?」
___あちら?
拓海には、何のことか理解らない。
「この状況で、消えられる と思うか?」
「玄武さまがいますからね」
清雅としては、もう少し放浪していたかったようだ。四獣聖といっても、野育ちの彼は一カ所に縛られるのを嫌っていた。と云って、以前のように自由に放浪する事も出来なくなっていた。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍