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ウエストテンプル
ウエストテンプル
novelistID. 49383
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ナイトメアトゥルー

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口の中は、唾液と混じったことによりすでに食べ物の原型を留めていないドロドロの液体に満たされていた。

舌の動きによって口の中がかき混ぜられる。
かき混ぜられている液体の中で意識が薄れていく。

デンプン質の粘り気が顔にこびりついているが、もうそれを拭きとる術を持っていない。
舌が大きく下降する。
溜飲の動きであろう。
真っ赤な口蓋の下を通過すると、後は奈落の底へ落ちるように食道を下った。
粘っこい液体はすべり落ちるように胃の入口に到着すると、途端に胃液溜まりへと着水した。

鼻をつんざくような臭いと強烈な酸。
追浜のように顔が綺麗な女の子でも胃の中は外部からの侵入した物体に対して容赦がなかった。

「あははは、何で好きでもないあいつに喰われるんだよ…」
半ば諧謔を込めた口調で言った。
だが、もうタイムリミットだ、
だんだんと意識が途切れていく。

――――――――…―――――――――――
――…――


1分も経たない内に焼きつくような酸によって頭部が溶かされて完全に意識は途切れた。







――――――――……――――――――
…―――――――…。
――――…。
…。



朦朧としながらも意識が回復してきた。
ん…、確か、追浜に食べられて、胃の中で完全に消化されて…。
ここは死後の世界か…?
または、追浜の体内で意識が復活したのか、それとも排便後なのか…?
はたまた何かに生まれ変わったのか?

考えが混乱している……。
生きて…いる?
生きているのか?
ともかく、生きているのであれば旧暦における16日の朝がやってきているはずだ。

体は…?

ある!
あるのだ。
体の感覚が!!

起きるなり、頭と胴体や四肢が繋がっていることを確認する。
「……。よかった…。生きてる。」
つい、声に出してしまった。

いつもどおりの朝だった。
時計は7時をさしていた。
時計を確認後、体中が鈍痛が襲われる。
体中に残る痛み。
あんな{夢}の内容だったので痛みの残り方も半端が無い。

乳酸が蓄積した筋肉の痛みとは質が違う、ナイフで全身をえぐられたような痛みである。

それに加え、ベッドから降りることさえも重労働に感じる倦怠感。
それは精神上の多大なるモヤモヤ感からである。


{夢}の中での出来事をもう一度反芻する。
満月の日の夢に出てくるのは俺が気になっている女の子。

しかし、昨日の夢に出てきて俺を喰べたのは追浜 叶絵。

え…て、ことは…俺、あいつのこと気になっているの?
何で?
弁当を持ってきてくれたから?
そんな理由で?
いや、そんなはずはない、そうだ。追浜 叶絵はただの幼馴染であってそれ以下でなければそれ以上でもないのだ。


第一、
あいつが全裸でベッドの中で寝ていようと俺は全く手を出さない自信だってあるのだ。
それに、弁当だってあいつの母親の美絵さんが作ったって追浜自身が言っていたことだし。

でも…。
………。
もしかして…。
…。
実際はどうなんだ。
…。
………。

考えても結論が出ないことに加え朝飯を食べる気が全くしないため、少し早いが学校に行くことにした。



教室に到着すると、一人の女子がすでに登校していた。

その女の子とはクラスの委員長の待瀬 清麗(まちせ せいら)だった。

待瀬はメガネをかけていて前髪が眉毛の上で揃っている。
そして後ろ髪は、肩にかかるかかからないか程度の場所でこれまた直線に揃っている。
その外見のイメージ同様に文学少女で、今も席に座り分厚い本を読んでいる最中だった。

待瀬についての話は、彼女の同じ中学だった男子から聞いている。
そいつ曰く、「純粋無垢で品行方正なお嬢様」らしい。

教室の後ろから入った事とあの集中具合から見て、おそらく待瀬は俺に気がついていないはずだ。
急に挨拶したらびっくりするであろう、席に着いた時のカバンの音を何気ないノックのようにして、存在を確認させてから挨拶しよう。


歩きながら後ろから待瀬の細い背中に目をやる。
うーん、この子、素材がいいんだから、少しお洒落するだけで劇的に変わる要素を持っていると思うのになぁ。
しかもボディラインもそこそこだ…。


すると、
「おはようございます。」
と、急に待瀬が本から顔をあげず挨拶をしてきた。

考え読まれてた?
何故ならその言葉には少し怒気が含まれているようにも感じたからだ。
「あ…あぁ、おはよう。」
心の動揺隠しきれずに挨拶をしてしまった。


女の子って自分への視線に敏感って聞いたことあるけど、これはチートだろ。
でも、このまま席に座ってやりすごせばいい。

俺の席まであともう少しだ。
因みに俺の席は待瀬の3つ斜め前である。

挨拶もしたことだし、そのままそろりと通り過ぎてしまおう。
そんな甘い考えを待瀬は許してはくれなかった。

まだ、待瀬は本から顔を上げていない。
そのままの体勢で質問を投げつけてきた。

「伊達君。追浜さんと仲がよろしいですよね。」
その言葉には多少なりとも迫力がこもっていた。
これじゃ尋問だ。
その場で立ちつくすしか方法が無い。
あぁ、席までこんなに遠いなんて…。

とにかく、何か喋らないと…。

「え、別に…そんな仲良いってわけでは無いけど…。
あ、ほら、あいつとは小学校まで一緒だったから、そんだけの関係だよ」
「では、何故、昨日、一昨日と伊達君にお弁当を持ってきているのですか?」
「ん、それはあいつが勝手に持ってきているってだけで…。」

依然とこちらを振り向かずに本を読んでいる体勢のままである。
すんげぇ怖いんですけど…。

「何か、追浜さんの弱みを握っているのではないですか?」
「いや、違う。俺からは何もお願いしていない。それに昔から知っているからあいつの母親とも知り合いで、あの弁当てのはその人から渡されているものらしい。」

すると、さっきまで微動だにしなかった待瀬の肩がピクリと動いた。

「では、最後です。伊達君は追浜さんと交際しているのではないですか?」
「は?んなわけないだろ、だから、あいつとは単なる幼馴染でそれ以上でもそれ以下でもないんだよ。」

と、同時に俺が入ったドアがガタンと物音をたてた。
振り向く。
しかし、誰もいない。
いや、黒いツインテールがドアの隙間から見える。
あの子か。
まぁ、ここは捨て置いてもいいだろう。


「それは真実ですか?」

その声を受けて、再び顔を後姿のままの待瀬へと向き直す。

「こんなことで嘘ついてなんの得になる。
大体、付き合っているんだったら一緒に昼飯し食うだろ、普通は。」

そう言い終わったところで、待瀬は本から顔を上げるなり振り返った。
「そうなの、じゃ、よかった。」
急に口調と声調が変わる。
何かホッとしたような待瀬の表情、
やっぱ、この子可愛い。

ん…、尋問終了かな?

ホッとした表情で待瀬の顔色は安定している。
その表情の顔色にすかさず疑問を投げかける。
反撃だ。

「え、何だって?「よかった」って?」

一瞬、言いにくそうな色を見せた待瀬だったがすぐに真実を述べた。
「もしかしたらとおもって……。