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ウエストテンプル
ウエストテンプル
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ナイトメアトゥルー

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しかも、嘘をついたとしても嘘をついた時の癖がわかりやすい。
確かあいつが嘘つくときは、無礼を承知で人を指差す。

ん…?
昨日、今日、あいつは二日続けて、俺を指差していた。
て事は、美絵さんが作ったって言うのは嘘だったのか?
て事は、あの弁当は誰が作ったんだ?


――――
――

わからない。
答えが出ないのに、かなりの時間を考えることに費やしてしまった。

そのような思考に没頭していたことに後悔した。
何故ならば、もうすでに弁当箱の中身の大半は追浜の胃の中にあるのだから。
弁当箱の中身はすでに大きなスペースが出来てしまっている。

追浜 叶絵と佐藤 麻里は楽しそうに会話を交わしながらそれぞれの弁当箱をつついていた。

こうなったらあれだ、
追浜がこれを残す可能性にかけるしかない。
俺を包みこんでいる切干大根を。
………………。
神なぞ信じていないのに、まさに苦しい時の神頼みである。

しかし、そんな願いは一瞬の内に潰えた。
「あっ!これもちょうだい!」
「!?ダメ、これは絶対に食べさせない。」
「うー。」
「可愛い子ぶってもダメ。」
「だって、その切干大根美味しそうじゃん、残すならちょうだいよ。」
「ダメ、これ私、好きなんだから。」
「でも、全く食べようとしていないじゃん。」
「…これから食べるの。」
「へぇ、じゃあいいや、せいぜい美味しく食べな。」

追浜 叶絵と佐藤 麻里の会話。

一見、女の子同士のじゃれた会話だが、実際はどちらが俺を殺すかのロシアンルーレットだった。
もちろん、本人達はそんなロシアンルーレットに参加する意志を表明していない。

引き金を引いたのは弁当の持ち主の追浜 叶絵。

追浜の箸が俺のいる切干大根に伸びる、そしてそのまま箸は切干大根ごと俺を掴んだ。
格好としては足場の無いヒモに絡まり宙釣りになっているようなものだ。

恐怖感が体を拘束する。
「うわっあああーーーーー!」
大きな声を出す俺、しかし、そんな声なぞ聞こえていない追浜の表情。
そもそも、聞こえるはずもない…。

そして、俺ともども切干大根を米の部分に乗っけた。
そうか、白米に乗っければ美味さ倍増だ。

よって、追浜は一旦、切干大根から箸を離した。
地面がプラスチックから空気、白米と目まぐるしく変わる。
米の粘り気が切干大根に絡まった体をさらに拘束する。
上半身の自由の次は足がとりモチにとられたようだった。
そしてそれは完全に食べ物と同化してしまったことを意味している。

この状態では万が一でも発見される可能性がゼロになったことを意味する。
次の追浜の箸の動きは日本人であれば無意識ででもできる。

「あぁ、そうやって食べると美味しいんだよねぇ。」
佐藤 麻里が羨ましそうな声で言った。

ここからだと追浜の表情は見えない。
箸は止まっている。
箸が止まったとこを見ると、佐藤に相槌を打ったのであろう。

少しの時間だけの延命である。

だが、すぐに再び箸は動きだした。
延命の時間終了。

ここまで来れば、この後の動きはこの島国に暮らす大半の人が一万回以上は繰り返しているルーティンであろう。
それは箸で自分が食べられる程の米を掬う行動だ。

弁当箱の底に箸を埋め込ませ一気に持ちあげるとそのまま口の高さへと運ぶ。
そして上に乗っかっているおかずごと米を食べる。
口は大きく開けず、控え目に。
そんな年頃の女の子の無意識の行動で俺の命が終わる。

この米達はどう思っているのだろうか?
顔だけは可愛いこいつに食べられて本望なのか、はたまた生殖用の米に使われず退廃的な気分なのだろうか?
是非、声を聞きたいものである。

と、言っても、痛みが残るにせよ目覚めればまた日常の朝が戻ってくるからそう悲観することはない。

視界全体には通常サイズでは小顔の追浜の顔が巨大な女神像のように広がっている。

その表情を拝めたのは一瞬だけだった、次の瞬間、追浜の口が大きく開かれた。
白い歯と赤い口内が俺の視界いっぱいに広がる。
追浜にとっては小さく開けたつもりでも、この小さな体にとっては巨大なクレパスのようだ。
よって、どんなに綺麗な顔をしている女の子でもここまでのドアップには恐怖感しか湧きあがってこない。

でも、これは夢の中、いつもどおり目覚める、痛みなんて一瞬だ。
そこにさえ耐えれば。

………………………。
……………………。
…………………。
………………。
……………。
…………。
………。
……。
…。

でも何故だろう。今夜の悪夢はいつもと違う感じがする。
いや、いつもと違うのは明白だ。
だって、大前提の二つがいとも簡単に崩れているじゃないか!?
もしかして、俺は二度と目覚めないんじゃないか?
よもやこのまま俺は死ぬんじゃないか?
死?
やっぱり死ぬのは嫌だ。

おーーーーーーーーいーーーーー!!!
追浜!俺だ!
伊達いすみだ!
この中に…
この中に!
俺がいるんだ!
食べないで…、食べないでくれぇぇぇーーーー!!!!

再び、俺は叫ぶ。
だが声となるには音量が小さすぎる。
それほど俺の体は小さい。
眼前には糸をひいた大きな赤い洞窟と規則正しく揃った白い鍾乳洞がどんどんと大きくなる。

ぎゃーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

空に消えた空しい叫び。
箸に掴まれた俺は米と切干大根共々追浜の口の中へと閉じ込められた。

一旦、口の中央部に置かれた白米と切干大根と俺は舌によって前歯にまで押し戻される。

うわっっつっっっっっっ!

断末魔の叫びをあげた。
性懲りも無い効果の無い叫び。
俺は追浜 叶絵に食べられた。
いとも簡単にこうもあっさりと。

「そういえば、叶絵ってそれ好きだったよね。」

追浜の口が完全に閉じるか閉じないかのタイミングで佐藤の声が聞こえた。
頷いたのか口の中が縦に大きく揺れる。
その揺れと同時に舌と歯の動きは上手く連動している。

「いつから好きなの、それ?」
佐藤 麻里の質問の声が聞こえたが、それに対する追浜の答えを俺が聞く事は無い。

白米と切干大根と俺は舌で前歯までおし戻され、完全に細かく寸断された。
最初の一撃で体は上半身と下半身に切り離された。
次に犬歯が胴体と右手を切り離す。

痛てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー………。

声の限りに叫んだ。

その叫びに何も反応しない追浜の口の動き。
その動きは無慈悲なプレス機である。
容赦なく俺の体を何度も前歯で切り刻む。

その度に何度も叫んだ。
「喰われ」でもこんなに痛みを感じたことは無かった。
本当に死ぬのかもしれない。

もしかしてこれは夢では無く現実なのか?

それならば、追浜の栄養となって体の一部になり最終的には老廃物である垢となるか、爪か髪の毛の先端となって切られるか、はたまた栄養とならないのであれば排泄されるのか、
なんであれ運命は決まっている。


もうすでに、手と足の感覚が無い。
かろうじて残っているのは頭部のみ。
そう、もう今は頭しか残っていない。
そして、頭から切り離された体の部位らは奥歯で粉々にすり潰されていた。


運悪く頭部だけが残っているので、意識はまだある状態である。