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チキンというやまい(更に改題)

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「今日です。今日のお昼に、田代さんとお食事したときに」
 五階に着くと河田はエレベータから出ないで三階のボタンを押した。
「男のやもめ暮らしの部屋の惨状を見せたくないんです。改めてお願いします。コーヒーを御馳走してください」
 可奈は再びにこやかな表情に戻りながら先にエレベータから出た。彼女の靴音を聞きながら、細い後ろ姿を眺めながら河田は追う形になった。やがてその部屋のドアが解錠され、扉が開かれた。
「先に行きますよ。ヤバい物が落ちているかも知れませんからね」
 可奈は背の高い男にスリッパを無言で促してから奥へ進もうとしている。
「はい。どうぞお先に。ところで、いま始まったのは職場恋愛ということになると思いますが、可奈さんはどういうお気持ちですか?」
「幸いにもヤバい物は落ちてませんでした。ソファーに座って頂きましょうか?」
 向き合ったふたりは共に笑顔を見せ合っている。男はダイニングのソファーに座った。
「そのお話はコーヒーを淹れてからにしますね?」
 そう云いながら若い女は厨房に入って行く。
河田は暫くの間ソファーで待っていたが、コーヒーの香りが少しも感じられないことに不安を覚えつつあった。立ち上がった彼は可奈が消えた方向を辿った。
 嗚咽していた。可奈が厨房の床の上に両手を貼りつけて頭部を載せ、イスラム教の信者が祈るように膝を折り、泣き崩れていたのだ。