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漢字一文字の旅  第三巻

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十一の三  【兎】



【兎】は、うさぎの形だとか。
うーん、なるほど、じっとこの【兎】を眺めているとうさぎに見えてくるから不思議だ。

さて、瀬戸内海に周囲4.3キロの小さな島がある。
戦争中は毒ガスを製造していため、当時地図から消された島であり、密かに毒ガス島と呼ばれていた。
そんな島に、1971年、8羽のうさぎが放たれた。その後それらは野生化し、今は700羽以上に繁殖し、生息しているとか。

こんな話しを耳にすると……、
終戦から烏【兎】匆々(うとそうそう)、時間の経つのは早いものだと思う。
そして、うさぎは月を見てはらむという伝説があるが、島から月を眺め、どんどん増えて行ったのだろうなあと変に納得してしまう。

そんな毒ガス島は今は【兎】の楽園となっている。そして年間10万人の観光客が訪れているとか。
こういう状況を亀と【兎】の取り合わせで、「亀毛兎角」(きもうとかく)と言う。つまり亀に毛、兎に角が生えるような、あり得ないことだった。

このように【兎】という漢字、他の動物と組み合わさって……、例えば他に「烏」(う)と組んで、月日の意味の金烏玉【兎】(きんうぎょくう)。
さらに鳶(とび)と組み、よく見える目とよく聞こえる耳の鳶目兎耳(えんもくとじ)となる。

ことほど左様に、【兎】は他の動物を前に置き、毒ガス島であっても生き延びて行く、なかなかしぶとい漢字なのだ。