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漢字一文字の旅  第三巻

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九の四  【嬉】



【嬉】、女偏に「喜」。
この「喜」は太鼓に祝詞の器の「口」を添えた形で、太鼓を打ちながら舞い踊り、神を楽しませ、喜んでもらう意味だとか。
それに「女」が付いて、人が、いや「女」が楽しむ/喜ぶことだそうな。
確かに女性が楽しんだり喜んだりしてる様を見ると、【嬉しく】なってくる。

すなわち【嬉】は男自身が、また他人自身が積極的に喜ぶことではなく、女が笑ってる状況や事態に幸せを感ずることのようだ。

さて、ここで…
江戸後期、喜多村信節(きたむらのぶよ)が書いた「嬉遊笑覧」(きゆうしょうらん)という随筆がある。
嬉遊笑覧、字の通り、さぞかし女性を楽しませる書物なのだろうなとなる。
しかれども本随筆は江戸の風俗習慣などを著した、いわゆる百科事典。確かに歴史的には勉強になり、面白いものだ。

しかし、【嬉】という漢字を冠に被ってる以上、当然、女性がHappyになる随筆であらねばならないと思うが…、そうでもないようだ。
「喜」は神が喜ぶこと。したがって「喜」遊笑覧と銘打った方が似合ってるのでは、と不遜にも思ってしまう。

他に、「文恬武嬉」(ぶんてんぶき)という四字熟語がある。
意味を辞書で引くと、戦争がなく平和な社会のため、文官も軍人も共に平和を喜ぶ様となってる。
これも、平和な社会、これにより女性が喜び幸せに、これを見て軍人も満足して、【嬉しい】状態と解釈してしまう。

ことほど左様に、【嬉】は女偏があまりにも強烈で、女性がどう喜んでいるのかが切り離せない漢字なのだ。