漢字一文字の旅 第三巻
十六の四 【喧】
【喧】、口偏に「宣」(せん)。
この「宣」(せん)には「宣室」と呼ばれる半円形の部屋があり、祖先の霊を祭り、裁判などが行われたようだ。
そこからなのだろう、発令を「宣言」ということらしい。
そして「口」の方はもちろん象形。
だが、これは人の口ではなく、祝詞を入れる器の形だそうな。
口偏に口という字がある。
それは一文字で「口口」。
(ケン)と読み、意味はやかましいこと。
しかし、本来は祝詞を入れた器を二つ並べたものだそうな。
さらに、口を四つ組み立てた漢字がある。
「 口口
口口 」
(シュウ)と読み、やっぱり滅茶苦茶やかましいことだとか。
しかし、これも本来は祝詞を入れた器を四つ、いや多く並べた形だそうな。
【喧】に付く「口」は元来
「 口口
口口 」だったとか。
これにより【喧】の意味は祝詞を入れた器を多く並べて、大声を張り上げて祈ってる様ということだ。
故に【喧】は「やかましい、かまびすしい」の意味になった。
この【喧】が並んだ四字熟語、【喧】々囂々(けんけんごうごう)は当然――多くの人が銘々勝手に発言して大変やかましいさま、の意味となる。
一方、はばかることなく正論を堂々と主張するさまの意味の侃々諤々(かんかんがくがく)という四字熟語がある。
【喧】々囂々(けんけんごうごう)と侃々諤々(かんかんがくがく)、この二つはよく混同される。
そしてもっとごちゃ混ぜにした形が「【喧】々諤々」(けんけんがくがく)だ。
残念ながらこんな言葉はない。なぜなら、やかましいが理論整然ってあり得ないからだ。
多くの人が集まり、「【喧】々諤々」(けんけんがくがく)と議論された、などといい加減なことを言わぬように。
そこで、正解は短縮させて、「ケンゴウ」、「カンガク」と覚えておこう。
ということで、本日はちょっと【喧】だったかな
作品名:漢字一文字の旅 第三巻 作家名:鮎風 遊