双子エピソード
ヴァイスと出会った日(レイス)
ヴァイスはちっさい。
俺の手でも握りつぶしてしまえるんじゃないかと思うくらい。
強く抱きしめたら壊れてしまうんじゃないかと思うくらい。
あんまりにもおっかなく思えて俺はヴァイスをヴァルディースに押しつけようとしたら、バカやろうとあきれられた上に、ヴァイス自身がどこから出てくるのかと思えるような大声で泣き出した。
ますます俺は困り果て、泣きやむ気配のないヴァイスの体を揺すってみたりするも、効果無し。
するとヴァルディースが一層あきれた声でこう言った。
「笑ってりゃいいんだよ。おまえの母親思い出してみろ」
そんなことを言われても、この状況でどうやって笑えばいいと言うのだろう。
母さんはどうして俺たちが子供の頃、泣きやませていたのだろう。
思い出すのは、常に笑顔だった母親の姿だ。
俺に殺されたときですら、なぜか苦しそうなのに、笑っていた。
思い出してしまうと、泣けてくる。切なくて悔しくて、でも母さんだったらこう言うんだろう。優しく、でもきちっと、子供の前で泣き顔なんて見せちゃダメよ。って
笑う。そう思ってなかなかつり上がらない口元を引き上げる。
ぎこちない笑みになったことはわかっていた。
でも、それにヴァイスの泣き声が止まった。
「ヴァイ」
と呼ぶと、なんとなくほっとしたような顔になったような気がした。
思わず、ヴァイスを抱きしめるように覆い被さる。ほっぺたがものすごくやわらかくて、ちっさな手が俺を求めるようにくすぐってきて、俺は初めて、幸せってこういうことかと実感した。
ヴァイにくすぐられるまま、俺は笑っていた。何年ぶりだろうと思うくらいに、心から。まるで夢のようだと思えるくらいにこの一瞬をかみしめながら、ヴァイを抱きしめる喜びに、満たされながら。