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双子エピソード

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私は洞窟の外に出た。だがそこは炎天のぎらつく太陽の下ではなく、穏やかな春の陽ざしの中だった。私は心から彼に感謝した。私を憎む相手に感謝するなどというのもおかしな話だが、だが、憎んでいることを、私が赦されないことを、彼が正面からぶつけてきたことで、何かが吹っ切れた。
それは、感謝という言葉でしか、表わすことはできなかった。



日差しの入りこまない洞窟の中に、レイスは居た。もうすぐランタンの火が消えると言うのに、外に出ようとはしない。
岩の上に座り込み、膝を抱え、消えようとするランタンをじっと見つめる。
ここにいたのは罪を背負ったガルグの長だった。だが今はどうだろう。その男はもう既にここにはおらず、代わりのように、あいつがいる。
「ミイラ取りがミイラになっちまったらしょうもなさすぎんぜレイス。しかも、ミイラの方は元に戻っておてんとさまの下を歩いてんだってんだからなお悪い」
だが、あいつは返事も返そうとはしなかった。代わりに、ただ静かに沈んだ感情だけが、俺の中に流れ込んでくる。
「レイ、ヴァイが待ってるぞ」
肩を抱く。その時、最後の火がか細く消えた。
「引きこもって、後悔に浸りきって、赦されるのを待ってる。なんで、俺、そんなこと、あの野郎に言えたんだろうな」
「そんなことか」
抱いた肩が震えるのがわかった。
「言葉ってのはな、発したら全部自分に返ってくるもんなんだよ」
「そう、だよな。全部、全部俺のことだ。何もしようとせず、ただ居心地のいい所で見つからないように、隠れてる、だけっ」
静かに停滞していた感情が、嵐の波のように目まぐるしく荒れ狂う。後悔や罪悪感、そして赦してほしいと願う切実な哀願。
「だったら、出て行こうぜ。お前を晒し物にしちまう炎天の真っただ中によ。それくらいなら、つきあってやる」
縮こまって震えるレイスの身体を担ぎあげて、俺は洞窟の外に出る。ヴァシルって言う野郎が外に出て時間は過ぎて、太陽は中天にかかっていた。けれどまだそれは炎天じゃない。ぎらつく夏の太陽ではなく、あるのは、真っ青な春の空の下だった。


黒衣の男は、その場に立ち尽くしていた。見覚えのある屋敷の前だった。だが、用があるのは屋敷ではなく、研究室のある離れだった。
男はその場に手をついた。
贖罪のように深く頭を垂れ、その場に跪いていた。



作品名:双子エピソード 作家名:日々夜