双子エピソード
サーレスとレイスとシーヴァ
ゼルガとアオイ、イリアとミレニアの結婚式。
派手に騒ぐ皆の中で、一人サーレスが席を離れるのを見て、追いかけるレイス
「よくわからないんですよ。何がそんなに楽しいのか。そりゃ、僕だって浮いていたくはありませんから楽しいふりをすることはできます。でも、別に心から楽しめるわけじゃないですし。正直、居心地は悪いです」
「まあ、俺らは育った環境が特殊すぎるからな。一般人となじめって方が無理なんだろうが」
「そういう割には、レイ兄さんだって楽しそうですよ。うらやましいです。やっぱり、僕はガルグから出てくるべきではなかったのかもしれないなんて、時々思います。いえ、あんな場所を肯定する気にはさらさらなれないんですけれど。でも、時折恋しくなるんです。あの殺伐とした空間が。外の世界の明るさより、あんな陰気な世界の方に安らぎを感じるなんて、僕もおかしいですよね」
「アル……」
「いいんじゃねーの? そーいうのもさっ!」
「っ!? 何しにきやがった、クソ女。てめぇは宴会場で大騒ぎしてやがれっ」
「うわぁ、ひでー。そうむき出しにすんなよレイちゃんよう」
「だ、誰がレイちゃんだ! てめぇにんな呼び方する言われはねぇよ! 暴走女が!」
「おおこわー。ヴァルに言い付けっぞー」
「うぐ……っ、ヴァルの知り合いだからって、付けこみやがって……。行くぞアル、こんな奴に関わってられっか!」
「え、あ、レイ兄さんっ」
「おいおい待てってー。あたしだって別にお前らと喧嘩しようと思ってきたわけじゃねんだからさー。仲良くしようぜ。同じ気持がわかる者同士ってやつ?」
「はぁ? 何言ってやがる、自分が一番大騒ぎしてるじゃねぇか。なんでてめぇが俺らと同じなんだよ!?」
「だからさーなんつうのー? うーん」
「明るすぎる所にいると暗さが恋しくなる。その逆に、暗すぎる所にいると、明るさが恋しくなる、そういうことですか?」
「お。そうそう! なんだよわかるじゃーん、サーレっちゃん」
「理解はできますが、でも僕もあなたと同じだとは思いたくもありませんね。それに僕はサーレっちゃんではなく、サーレスです。お間違いなく」
(……。サーレスが本気でいらついてやがる……。笑ってるのに笑ってねぇよ。こえぇよ……)
「まあ、同じだって思ってくれなくたっていいけどさ。でもまあ、分かる奴は、いないよりはいいじゃん? 寂しくなくってさ」
「……。そういうお前は寂しいってのか? あんな一番楽しそうにしてやがる奴が」
「まあ、そりゃぁね。こんな時じゃないと会いにもこれやしないって思って来てみたはいいけど、やっぱ昔とは違うって思い知らされるって言うか、な。どんだけ騒いでにぎやかにやってみたって、あたしの居場所はもうあそこにはないんだって……」
「……。お前、あの海賊団の船長だったんだっけな。で、あの今結婚式場で散々周りから遊ばれまくってる赤毛の……」
「ゼルガだ」
「ああ、ゼルガとか言ったか。あいつの幼なじみだって?」
「そんなに恨めしそうに見てるくらいなら、奪い取ってしまえばいいじゃないですか。ばかばかしい」
「じゃあ、お前はお前の一族を捨てるか、今の生活を捨てるか、どちらかを選べと言われたら、どっちを選ぶ。ガルグの創造主」
「……。僕は、僕の過去が生みだした存在を、捨てようとは思いませんよ。それくらいなら、今の生活を捨てます」
「だろ?」
「なるほどね。俺にゃお前らの感覚はよくわからんが、ともかく女王ってのも難儀な商売なんだな」
「お。やっと分かってくれたかよ、レイちゃん」
「だからっててめぇを認めたわけじゃねぇよっ!」
「でも、なんとなく僕には理解できましたよ」
「なんであたしだけ? とかな」
「ああ、そうそう」
「けど、逃げるわけにゃいかないのさ」
「そうですねぇ。背負ってるものがありますし」
「でも、たまの気分転換くらい許されるとおもわねぇ?」
「あなたの気分転換は派手すぎると思いますけどね」
「やっだなぁ、サーレっちゃん、あんなんまだまだ序の口だってぇ。それにサーレっちゃんのはっちゃけっぷりもなかなかのもんだと思うぜー」
「いえいえ、あなたにはかないませんよ」
「……。なんつうか、こいつらの会話が平和なのに、恐ろしく聞こえるのはなぜだ……」
「あらやだ、レイちゃん仲間外れにされていじけてんのかよ?」
「いじけるなんて、レイ兄さんも子供みたいですねぇ」
「いじけてねぇよ! なんなんだよお前ら、さっきから!」
「あ。レイこんなとこにいたの? ヴァイくんが寂しがって泣いてるんだけど、ちょっとどうにかしてよもうーっ」
「うぇ!? わ、悪いヴァイ、ここにいるから大丈夫だぞ!」
「シーヴァ! 勝手に騒ぎでかくしといて、雲隠れすんじゃねぇ!! また俺がどんだけ……っ、ああ、胃が痛くなってきた……」
「なんだよもうゼルガはあいっかわらずなっさけないなー。そんなんで船長なんて務まるのかよ。今行くって!」
「サーレス、アンタ用に大盛りとっといたんだ。食べないならみんなで食っちまうよ!」
「あぁぁぁぁ、タトラさんそれはとっといてくださいぃぃぃぃっ。僕の3日分のごはんなんですぅぅぅぅ!」
「なんだかんだ言ってよ」
「やっぱこういう世界がさ」
「良いんじゃないですかね」
「もう、レイってば!」
「シーヴァ、さっさとこい、ぎゃあああああ!!」
「サーレス、いらないのかいー?」
「「「今」」」「行く!」「行くってばよー」「行きますぅぅぅぅ!」
「あ。レイ兄さん。この結婚式が終わったら、僕ちょっとあの人のところに、行って来てみようかと思います」
「サー、レス。それは、まさか、長に……」
「一人で、たぶん苦しんでるんじゃないかって思ってきてしまって。僕が行って何ができるのかわかりませんけど」
「生みの親が出向くんだ。よろこばねぇやつなんかいねぇよ」
「だと、いいんですけど」
「大丈夫だ。保証する。お前、いい顔するようになったから」
「はは、ありがとう、ございます」