天空の騎士団___覇王の翼1
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ゲルマニア竜騎士団は、四隊で構成される。西を護るアーレス・ロウ・カーディフ率いる黒竜隊、東を護るアージェント・グレイ・フローレンス率いる青竜隊、北を護るユージン・ラ・エアリアル率いる赤竜隊、そして中央を護る王都守護隊の四隊である。総帥不在の竜騎士団は、王都守護隊長が代行し、隣国ロレンシアがいつ進軍してもいいよう準備している。
王宮から、その通達があったのは今から数時間前の事だ。
___竜騎士団総帥は、十日後の御前試合において決定する。
驚いたのは、当の本人であるレオンハルトではなく、三翼と呼ばれる青、赤の竜騎隊長である。
三翼___総帥参謀騎士には、総帥選出の権利がある。
「___妙ですね。今回に限って王宮が介入してくるなんて」
銀髪碧眼の美青年アージェント・グレイが、温和な表情を崩した。
「そんなに、妙な事なんですか?グレイ青竜隊長」
「アージェントで構いませんよ、マジク。竜騎士団総帥は、これまで前総帥の指名、もしくは我々三翼による賛同をもって国王陛下の裁可が降ります」
「青、赤、黒の三隊長が決めていたんですか?」
「ええ、我々の上に立つ方ですからね。前総帥が次期総帥を指名されず、突然亡くなられた場合ですが」
故に、三翼も正しい者が選ばれる。国の為に忠誠を誓い戦えるか、総帥は三翼を選び、信を置く。竜騎士団が機能しなくなくなるのを防ぐ為、いざと云う事も考えてである。
国王は、そんな竜騎士団を信頼し、王宮は一切介入してこなかった。
怪しむなと云うのが、無理である。
「で、誰なんです?レオンハルト様の相手」
「マシュー・ドレイク」
「___は?」
赤竜隊長ユージンが、ポカンと口を開けた。
「名乗り出たそうですよ、直に」
「直にって、自分の上官にですか?アージェント様、それって名乗り出たというか、宣戦布告ですよ。マシュー・ドレイクは、王都守護隊長レオンハルト様の副官です」
「やはり、妙ですね。彼が、大公殿下の御邸に出入りしている云う噂もあります。あの方が噛んでいるとなると、今回の件、何かありますね」
それが何なのか、二人には理解らないと云う。マジクが隊舎の露台に出ると、竜から丁度王都守護隊長から降りた所だった。
「やっぱり、いいですよねぇ」
銀色を帯びた竜を見上げながら、マジク・スロットは呟いた。竜騎士団に憧れ、竜騎士志願の少年は今は雑用係だが、やはり竜に乗り天を飛びたいと思う。
「やめておけ。その若さで、死ぬつもりか?」
「貴方だって、若いでしょう守護隊長」
「竜は馬と違って、相手の力量を見抜く。骨折だけじゃすまない。確実にあの世行きだ。それでもいいなら、俺は何も言わない。好きにしろ」
「…普通最後まで止めませんか?」
。「竜騎士になるには、憧れじゃなれない。天の上では命懸けだ」
その覚悟はあるのかと、男の目が言っている。総帥不在の竜騎士団を率いる王都守護隊長レオンハルト・フォン・デルフォニア。公爵と地位に甘んじず、生きる場を今も天に留める彼は、二十七にして歴戦のつわものだった。その彼に見つめられたら、マジクは何も言えない。
騎士と呼ばれる人々が、馬から竜へ切り替えて百年以上は経つ。鎧もステイルメイトと呼ばれるものに変わり軽くなったが、その分命の危険性は高まった。ステイルメイトは、胸当てと肩当て、籠手以外身を保護するものはない。天空戦で自由に動き回る為、彼らは身を守る術も得なくてはならない。竜を操り、更には不安定なその上で剣を振るう。竜騎士に要求されるのは、竜との信頼関係と、技術、剣の腕、そして命の危険への覚悟。
竜騎士志願者は多いが、竜騎士となった者は少ない。皆、その覚悟を問われるからだ。
天空を舞って、初めて理解る死への恐怖。一度感じたそれは、竜は見逃さない。主に向かずと信頼関係は絶たれる。故に、竜騎士は竜に乗る前に問われるのだ。
___何の為に天を飛ぶのか?何を賭けるのか?
レオンハルトは、僅か十にして竜に乗っていた。父親が竜騎士だったという事もあるが、その父親よりも長く天を飛び、竜騎士となった。ゲルマニアを護る___、その意思を持って。
外套の裾と、軽く編んだ金髪を翻し、レオンハルトが踵を返す。
何かが、風を切った。
「___マジク!よけろっ!!」
「え…?」
それは、ほんの一瞬だった。
作品名:天空の騎士団___覇王の翼1 作家名:斑鳩青藍