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天空の騎士団___覇王の翼1

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 ゲルマニア王都セントリア、通称魔法街と言われるその一角に、彼は住んでいた。どんな相手でも一発で仕留めるハンター、別名『死神』。
 ___どういう事だ?
 何を言われているのか理解できなかった彼は、ゆっくりと視線を上げた。
 「お前なら、確実だと信じていたのだぞ。『死神』の名も廃れたな」
 「___失敗したと?」
 「あの男、ピンピンしていたぞ」
 「馬鹿な。アレから逃れられた者は誰もいない!」
 「ならば、何故生きているのだ?これでは、いつこっちの事が知られるか…。あの方の身も危うくなる」
 「ロレンシア製の毒に効く解毒剤は、この国にはない…」
 「即効性だと、いわなかったか?死神トレース」
 その筈である。かすり傷であれ、確実に死を招くその毒は、彼が最も得意とする暗殺手口だった。
 「待て…、例え生きていたとしても、手応えはある筈だ。言ったであろう?あの毒の解毒剤は、この国にはない。毒の回った体では、もはや…」
 「狙った場所は?」
 「右肩だ」
 依頼主が、ニヤリと口の端を釣り上げる。次の瞬間、彼の剣はトレースの胴体を払っていた。用済みということである。
 「マシュー様」
 「上には、適当に報告する。我々が駆けつける前に、何者かに殺されたいたとか。ここでは、そのくらいの事は起きてもおかしくない場所だ」
 その言葉通り、竜騎士団最上部へ報告された。
 「___しかし、ロレンシア製の毒が王都にあったとはねぇ」
 「以前から、ロレンシアから兇手が入り込んだという噂がありましたが、問題はそれが使われなかったかどうかです、ユージン」
 「誰かの依頼を受けてですか?アージェント様」
 「ありえない話ではないでしょう。ただでさえ王宮は二つの勢力下にあります。その兇手、一切証拠を残さないそうですし」
 「でも、殺されちゃったじゃないですか」
 「相手は恐らく、依頼主でしょうね。誰を狙ったか、聞けなくなりましたね」
 「ですが、今だに毒殺されたという報せはありませんよ。ねぇ、アーレス様」
 黒竜隊長アーレスは、難しい顔をしていた。その探索に出かけ、帰ってきた王都守護隊副官マシュー・ドレイクの自信に満ちた顔が気になっていたからだ。
 ___まさか?
 一つの結論に辿り着いて、その顔は青ざめる。
 「狙われる人間は、何も王宮の中とは限らん」
 「___それって…」
 三翼の三人は、その時同じ人物を頭に浮かべたのだった。
 蒼天下の竜騎士団隊舎、それはいつもと何ら変わらぬ光景。
 天空を旋回、そして一気に滑空___体制を崩せば、その体は間違いなく地表に叩きつけられる。竜を操り、剣を交える。竜騎士たちの鍛錬は、天で行われる。
 地上から見上げていた目が、一瞬のそれを見逃さなかった。
 「___黒竜隊は今頃、北境警備の筈だろ」
 「一瞬でしたが、体制が崩れましたな」
 「___ああ」
 「やはり、刺客が狙ったのは貴方でしたか。レオンハルト様」
 レオンハルトは、否定しなかった。狙われたのは間違いではない。アーレス相手にごまかしの利かない事は理解っていた。
 「かすり傷だ。大したことない」
 「天で体制を崩す事のなかった貴方が、それで大した事がないと?」
 右肩にポンッと置かれたアーレスの手に、レオンハルトが眉を顰めた。
 「___止めたって無駄だぞ、アーレス。挑まれた以上逃げるわけにはいかない」
 「これが普通の戦いならば、止めません」
 「俺をやったのが、ロレンシア製の猛毒だからか?」
 アーレスは、ごくりと生唾を呑んだ。彼の喉元に、いつ抜かれたのかとも気づかぬレオンハルトの剣先があった。
◆続く…◆