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天空の騎士団___覇王の翼1

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 「ここは、何とかしなけらなりませんぞ。内輪で議論する時は、もう過ぎている」
 ゲルマニア王宮大広間、改革派と呼ばれる数人が国王ヴィクトール・ヨハン一世の前に並んでいる。大公ロアルドを中心とした勢力は、よほどの事がない限りこの大広間に顔を揃える事はない。
 「落ち着かれよ、ローズウッド伯爵。国王陛下の御前だぞ」
 「陛下の御前故、結論を出さねばならぬ。今ロレンシアが攻めてくれば、いくら彼らにでも勝てまい」
 「伯爵、それは例の件か?」
 「はい、竜騎士団総帥の人事の事でございます。国王陛下。前総帥であられたアーサー・イズ・デルフォニア公爵様亡き後、今だに空席。どなたがその座に適任か誰の目にも明らかにございます」
 「大公が、反対しているのであろう?レオンハルトが、総帥となる事を」
 「陛下、その食い止めをして来たのはレオンハルト様でございます。統率力と共人望もございます。竜騎士たちが、見知らぬ新総帥に馴染むまでロレンシアは待ってはくれません」
 「三十年前と似ているな。あの時はアーサーが自ら降りて終わったが」
 「国王陛下、ゲルマニアを護る為、今度ばかりは例え陛下の御弟君である大公殿下であろうと譲れませぬ」
 「ロアルドが気にしているのは、アレがアーサーの息子だからだけ、ではないのは余も存じている。だがそれと、今度の件は違う。ロアルドは御前試合にて決定すべきだと主張している」
 数時間前___、ロアルド・リッツェンベーガは国王を訪ねてきた。
 「___ロアルド…、今何と申した?」
 「何卒、御裁可くださりますようお願い申しあげます陛下」
 「しかし…、何故今になって…」
 「ゲルマニアを護る為には、真に強い者がかの座にあらねばなりませぬ。それを確かめてからでも遅くはございませぬ」
 ロアルドにしては、珍しい物言いであった。やはり彼もゲルマニアの人間なのだ。国を想う人間としてと云った言葉を、信じたい国王であった。
 彼にも、誰がこのゲルマニア王国を護る竜騎士団総帥に値するか理解っている。三十年前、王弟アーサー・イズ・デルフォニアとの王位継承問題でもそうだった。誰が王として優れているか誰の目にも明らかだったのだ。
 国王は、王家嫡男にして太子の座にいたが、王座への拘りも執着もなかった。優れたものこそ、その任に就くべきだと思っていた。ただ、それを言えなかった。もう一人の弟ロアルドが、主だった重臣を集めたからだ。
 「陛下、我らが改革を実行すれば三十年前以上に王宮は荒れましょう」
 「やはり___、避けられぬか」
 国王の三度の溜息が漏れる。レオンハルトが望む望まぬに限らず、その日はやって来るのだ。
 その前に、竜騎士団総帥は誰かを決めなくてはならない。ゲルマニアを護っているのは竜騎士団である。その総帥は、国王に次ぐ地位にあった。
 大公ロアルド・リッツェンベーガは、その座にレオンハルトを就かせる訳にはいかなかった。改革派を復活させるようなものだ。父親アーサー・イズ・デルフォニアと違って、レオンハルトはロアルドとはこれまで何度か衝突した。甥であれ、己の野望に彼は危険な男であった。
 グラスを傾けながら、ロアルドは睨みつけていた。その視線の先に短剣の刺さった紙がある。竜騎士団総帥候補として記された名は、レオンハルト、フォン・デルフォニア。
 「___大公殿下」
 「何だ?」
 「直ぐに王宮へ御登城するようにとの王命にございます」
 「なに…?」
 「竜騎士団総帥任命についての事と、承っております殿下」
 「理解った」
 従者が下がると、ロアルドは口の端を吊り上げた。
 「___聞いていたな?恐らく王は、儂の計画通りの命令を下す。そなたの出番は、レオンハルトと対峙するその時だ。その為にそなたを竜騎士にしたのだ。そなたの剣の腕は充分引けはとらぬ。潜り込ませるに造作はなかったが、まさか感づかれてはおらぬな?そなたが、儂の縁者だとは、マシュー」
 「その点は大丈夫です叔父上。いえ、大公殿下」
 「そなたが竜騎士団総帥となれば、もはやあの男に出番はない。次期国王には我が息子リオン、竜騎士団総帥はそなた、我が一族がゲルマニアをこれからも支えるのだ。その為ならば、どんな手段も使う。ふふ、見ているがいい」
 まるで魔物が取り憑いたかの如く、ロアルド・リッツェンベーガは嗤っていた。