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正しいフォークボールの投げ方

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 素直に受け入れたのであった。

 ヒロはイマミヤからバットとヘルメットを借りて打席に立った。

「監督……」

 小さな声でイナオが呼びかけた。

「イナオ、言いたいことは解る。お前が投げられるならお前に代えさせて投げさせているよ。だが、お前がキャッチャーにしないといけない状況で、他の投手を投げさせるには多少なりに不安がある」

「そうですが……」

「ちなみにモトスギの球はどうだ? ここから見る限りでは、あと二回は行けるだろう?」

「……そうですね。良くも悪くもフォークボールのキレはいつも通りです。ただ、今回は少し球が荒れてますね。その所為でボール球が多くなっていますが……」

「そのお陰で球を絞れていないとも言える。それにまだ、あのオチアイにしか打たれていない……。運も持っているはずだ」

 結果を見れば確かにそうであるが、失投していつ長打を打たれるか解らないのが野球である。しかし、ミハラは腹を据えていた。

「イナオ、お前がモトスギを入部を勧めていなかったら、こうして最終戦を戦えなかったかも知れんな。だからこそ、この試合はお前とモトスギにかける」

 ミハラの視線の先に、ヒロが不慣れにバットを構えている姿があった。

 ムラタの豪速球が重い音を立ててミットに突き刺さる。
 序盤と比べて若干球速が落ちているものの、初打席のヒロにとっては想像以上の速さであった。

 しかしヒロは指示通りにバットを振らずに、ただ構えて突っ立ってムラタの速球と自分の投球を比べていた。

(こんなに速い球が投げられなくても、イナオさんみたいに精密な制球力じゃなくても、フォークボールで戦ってこれた……ここまでこれた)

 ヒロは改めて、自分のフォークボールに自信を持った。つい三ヶ月ほど前は野球の素人だったにも関わらず。

 だけど、ここまでこれたのは自分だけの力とは思ってはいない。

 野球をする切っ掛けを与えてくれた野球の神様、自分のフォークボールの可能性を見出してくれたイナオ。
 そして応援してくれた眞花や沙希、イマミヤたちの大府内高校の部員。皆のお陰であるのを身に沁みていた。

「ストライク、バッターアウト!」

 ヒロはバットを一度も振ることなく三振に倒れると、ベンチに戻りながらスコアボードを見る。

(あと二回。たった二回を零点で抑えるだけで良いんだ。あと二回……)

 ヒロは自分の右肘に一瞬目を向ける。少しばかり痛みが有ったが、出来る限り気にしないように決めた。

 ただ、そう思った時点で意識せざるえないものである。

 翻ってムラタは、後続のアナン、イナオを難無く抑えて、追加点どころか出塁すら許さなかった。

 大府内高校と織恩高校……両校の選手たちは改めて確認する。

「あと二回」

 八回表、ヒロはこの回の先頭打者ミズカミを死球で出塁させてしまうものの、続くハカマダをフォークボールで三振。九番ムラタの所で代打が出され、アイコウと対戦することになった。

 アイコウの初球。危惧していたフォークボールがすっぽ抜けてしまい、ど真ん中の甘いコースに投じてしまった。

 アイコウに強烈なセンター返しを打たれてしまったが、遊撃の守備に就いていたイマミヤが横っ飛びで見事に捕球する、ファインプレーが飛び出した。

 イマミヤの守備に助けられたヒロは励まされたようで、一番に戻ったヨコタをフォークボールで空振り三振に切って取り、無失点に抑えたのである。

 八回裏、大府内高校の攻撃。追加点をあげて、ヒロを楽してあげたかったが、織恩高校は代わった投手・ウシジマの前に呆気無く三者凡退に倒れてしまった。

 大府内高校、一点リードのままで最終回を迎えた。