正しいフォークボールの投げ方
(こうして受けてみて、改めてモトスギのフォークの凄さが解るな。捕手が捕れないボールだ、打者が打てないのも頷ける……。そしてそれを捕球していたワダちゃんは、やっぱり名捕手だよ)
居なくなってから気付くワダの凄さを実感していると、九番ムラタが打席に立つ。
試合は六回表。投手交代して代打が出されてもおかしくないイニングではある。
(ムラタは続投か。おそらく最後まで投げさせるかな……)
そもそもムラタのスタミナは群を抜いており、完投を信条にしているほど、ほとんどの試合で最後まで投げ切っている投手である。
投手であるならば、それほど打撃には注意しなくて済む。打者が手こずるフォークボールを、投手が打てるものでは無い。
(モトスギ、ランナーは無視していい。このバッターに集中だ!)
塁に出たハカマダは、捕手がイナオで捕球に難があるということもあり、ヒロがフォークボールを投げるのを見計らって盗塁を決行し、成功させる。
だが、ヒロとイナオに動揺や焦りは無い。
ハカマダを無視し、いつもの如くフォークボールを連投し、ムラタを三振に仕留めたのである。
この回では、ハカマダは振り逃げになったもの記録上では奪三振とされるので、結果ヒロは、一イニングで四奪三振という珍記録を残したのだった。
「あれがフォークボールか。わしも、あれを投げられたら……」
フォークボールを目の当たりしたムラタが投手の視点で興味を持ち、そしてベンチから食い入るようにヒロを見ていたオチアイは、「うん。あれはカーブだな」と、意味深に呟いた。
作品名:正しいフォークボールの投げ方 作家名:和本明子