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正しいフォークボールの投げ方

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第六球 本物のフォークボールは揺れたと思ったら消えるように落ちる -2-



 大府内高校が対戦する最終戦の相手校は、織恩高校。

 かつてヒロがイナオたちに連れられて敵状視察しに行った南海高校と対戦した高校である。織恩高校の現在の順位は十一位と、西部地区ではブービーの位置になる。なお、この試合で織恩高校が負けてしまったら最下位に転落してしまうのだった。

 ちなみに、この世界では最下位になってしまうのは、大変不名誉この上無いことなのである。最下位になってしまったら陰口を叩かれてしまうなど、次のリーグ戦が始まるまで苦い思いをしなければならない。だから織恩高校は、非常に危機感を持っていた。

 ある意味、プレーオフ出場を懸けて二位を目指す大府内高校以上に、勝たなければならない意気込みを持っていた。

 織恩高校はリーグ戦中盤まで最下位が定位置だったのだが、一人の選手の復帰と活躍で試合に勝つようになり、先日ようやく最下位脱出を果たしたのであった。

 その選手の名前は、オチアイ博満。

   ●○●

 試合開始、一時間前。

 対戦校の織恩高校も到着し、グランドで大府内高校の双方が練習をしている中、既に大府内高校の観客席は全て埋まっていた。あの大正義高校との一戦以来、いやそれ以上の盛況っぷりだった。

「うわー、一杯だな」

 久しぶりの満席に、ヒロが言葉を漏らす。人の多さに眞花の姿を見つけることは出来なかった。

「最終戦だからね。それに僕たちが勝てばプレーオフ出場だから、地元高校の応援に熱が入っているんだろうね」

 ヒロとキャッチボールしていたイマミヤが球と共に送り返したきたが、ヒロは球を取り損なって後逸してしまった。

 球を取りに行こうとすると、近くにいたイナオが拾い、投げ返してきた。

「イナオさん、ありがとうございます!」

「モトスギ、なんか少し身体が堅いな。ちゃんと寝て休んだのか?」

「あ、いえ。多分、緊張しているのかなと思います……」

 早朝のグランドから寮の自室に戻った後、横になったが眠れはしなかった。しかし、疲労はさほど感じてはない。だが、大勢の観客、プレーオフ出場がかかった二位を確定させる一戦。試合開始の時間が近づいてくる度に緊張と重圧を感じてしまい、身体が重くなっていく気がしていた。

「まあ、普通はそうだな。だが、こういう大舞台で結果を残してこそ、栄光の道は開けるんだ。なーに、モトスギは大正義高校との時に登板したみたいな気持ちで行けば」

「あの時は、ただフォクボールを投げるのに集中していましたから……」

「それで良いんだよ。オレたち投手は、要は打者との対決に集中すれば良いんだ」

 イナオとヒロが話し合っていると、ある男子が近寄ってくると、

「イナオさん、こんちわーす」

 二人は気兼ね無く挨拶をしてきた男子の顔を見入る。イナオにも負けずに体格が良く、少し天然パーマが入った髪だが端正の顔に引き立てるように似合っていた。

「おお、オチ!」

 驚いたような声でイナオが叫んだ。

「復帰していたというのは新聞とかで知っていたが、前に織恩高校と南海高校との試合を観に行った時にムースから、野球部を辞めたと聞いていたんだが……」

「ええ。辞めていましたけど、同級生達とかに頼まれたから復帰したんですよ」

「なんでまた、辞めていたんだ?」

「イナオさんもご存知でしょう。オレが、上下関係とかが好きじゃないのを。ただ先輩だからといって、野球の実力関係無く威張り散らしていたのがイヤで辞めたんですよ」

 率直で直情な理由に、イナオは笑ってしまう。

「相変わらず、オレ流だな」

「それがオレの生き方ですからね」

「しかし、お前がずっと居たら織恩高校が最下位争いなんかせずに済んだのにな……」

「それはどうか解りませんけど、負けるのはイヤなんで勝ちに行ったでしょうね。今日は、イナオさん言えども勝ちに行きますからね」

 一人の蚊帳の外のヒロは、憮然とした態度で当然の様に語る様を見て、思わずたじろいでまっていた。

 ふと男子がヒロの方に視線を向けたのを、イナオが察知する。

「紹介がまだだったな。オチ、こいつは……」

「知ってますよ、イナオさん。フォークボールのモトスギでしょう。初めまして、オレはオチアイ博満と言うものだ」

 男子は改めてヒロを直視し、自己紹介をした。

「オチアイ、さんですか」

 述べられた名前に聞き覚えがあった。敵状視察した際に教えて貰った、天才打者と評された人物の名前である。

「ああ。対戦する時は、是非噂のフォークボールを投げてくれよな。それじゃ、イナオさん。今日はお手柔らかに」

「こちらもな」

 挨拶を済ませると、オチアイは自軍のベンチへと戻っていく。

 ヒロは『6』の背番号が刺繍されたオチアイの背中を見送っていると、

「モトスギ。もし、オチと対戦する時は気を付けろよ」

 イナオは最大限の警戒を告げた。

 そうこうして、大府内高校と織恩高校。両チームともに、勝てば天国、負ければ地獄の最終決戦が開始されたのであった。

   ●○●

▽先攻 織恩高校
 一番 ?左翼手 ショウジ智久 (三年)
 二番 ?遊撃手 ニシムラ徳文 (二年)
 三番 ?右翼手 ヨコタ真之  (二年)
 四番 ?二塁手 オチアイ博満 (二年)
 五番 ?三塁手 アリトウ道世 (四年)
 六番 ?一塁手 ヤマモト功児 (三年)
 七番 ?遊撃手 ミズカミ善雄 (二年)
 八番 ?捕 手 ハカマダ英利 (二年)
 九番 ?投 手 ムラタ兆治  (三年)

▽後攻 大府内高校
 一番 ?中翼手 ウチカワ聖一 (一年)
 二番 ?右翼手 ツチヤ鉄平  (一年)
 三番 ?遊撃手 ノムラ謙二郎 (二年)
 四番 ?一塁手 オオシマ康徳 (二年)
 五番 ?左翼手 カツラギ隆雄 (三年)
 六番 ?三塁手 オカザキ郁  (二年)
 七番 ?捕 手 ワダ博実   (三年)
 八番 ?二塁手 アナン準郎  (三年)
 九番 ?投 手 タカハシ直樹 (三年)

 織恩高校の先発出場選手はベストオーダーを揃えてきており、大府内高校も怪我で欠場しているオオタたちが居ないものの、現時点でのベストオーダーを組んだ。

 初回、大府内後攻の先発マウンドにはイナオではなく、三年生のタカハシが立っていた。

 最終戦かつ重要な一戦であるならば、本来ならエースのイナオが登板するべきなのだが、鉄腕と言えど疲労はピークを越えており、長い投球は少々不安ではあった。

 ミハラ監督はそれを考慮し、投げるイニングを一回(イニング)でも減らし、ここぞの場面で登板させると考えていた。

「出来る限りタカハシで行くつもりだが、泣いても笑っても最終戦。今日で今年の最後の試合にはしたくないだろう。出し惜しみは無く、全戦力で行く。悪ければすぐ交代させるから、各々準備の方は整えておけ!」

 試合前のミーティングでミハラは激を飛ばしたのであった。

「確かにイナオはウチのエースだが、俺だって負けていないぜ!」

 意気込むタカハシ。