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正しいフォークボールの投げ方

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 姿を見せなかった理由を淡々と述べていると、ヒロはどことなく気落ちしていった。野球の神様は察して、優しく声をかける。

『ヒロ君の所為……とも言えるけど、その大本を作ってしまったのは私だからね。とやかく言うことは出来ないわ。ヒロ君、とにかく今はただフォークボールを投げて、ボールが抜ける感覚とコツを掴みなさい。ほら、イナオ君もそう言ってるわよ』

 ヒロは野球の神様が指差した先……ホームベースの方を見ると、

「モトスギ。なに、ぼさっとしている。どんどん投げ込め!」

 明るい声で催促する。イナオもフォークボールを目の当たりにして喜んで、投げられる内に投げられる様にしたかったのだ。

 再び野球の神様が居る場所に視線を戻すと、姿を消してしまっていた。

「あっ……」

 しかしヒロは悟った。今はフォークボールの投球の方に集中しろ、という文字通り無言のお達しであろうと。

 ヒロは大きく振りかぶり、上半身を捻る。野球の神様の存在を感じているからか、心なしか身体が軽くなったようで、いつもよりも軽快に気持ちよく投球が出来た。

 それからもヒロたちは雨が降りしきる中、何度も何球もフォークボールを投げては、ボールが落下することに喜んでいた。イナオが最初に指定した十球を越えても終わらなかった。

 沙希は雨で身体を冷えてしまうので体調を気遣い止めさせるべきだったが、子供のように無邪気で野球をする二人の姿を見ていると止められなかった。

「あ、そうだ!」

 その代わりにと、すぐ濡れた身体をふけるようにとタオルを取りに部室へと向かっていく。そして去った沙希に代わって野球の神様がヒロを見守り、

『後は、試合で結果を残すだけよ。ヒロ君、頑張りなさい! でも、そのフォークボールは、まだ正しくはないけどね』

 含みを持たせた独り言を呟きつつ、ヒロの活躍を期待したのであった。