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今日も路傍の花達は僕から世界の中心を奪っていく
人生というテクストを修繕するものとして
今日も人々は僕に沢山の声を置いていく
だが人生はそもそもテクストであったか



気付いたら本に取り囲まれいていた
自ら進んで本の牢の中に閉じ込められた僕だ
本はとても甘い果肉を持っているが
そこに微量の毒を込めることを忘れない
僕は本から逃げられず
狂ったようにその果肉を啜っては毒に冒されていく
本の装丁・活字達
本は拒絶し僕は拒絶を超えることで負けていった



故郷に在るということは
郷愁を呼吸し郷愁を湯水のように浴びることである
それぞれの道に隠された記憶を神秘に触れるように辿り返し
それぞれの人の過去と自分の過去を縫い合わせることである
あの山に登れば
神はどんな木陰にもどんな山陰にも存在する
僕は神に挨拶して山頂で神めく太陽を射る



この声は誰にも届かないと
この手は誰にも触れないと
極力理解することで自分を守ろうとした
だが声は増幅して多数の人々へと届き
手にはいつの間にか無数の糸が絡まり
僕はそれを十分感じていたが
それでもこの声は、この手は、誰にも届かないと
自分の内側に消せない烙印を押し僕は怒っていた



自然は緩やかに回転する衛星を内に秘めている
少しずつ木々は芽吹き花を咲かせ実を生らせ
その回転に歯車のように噛みあって
僕らは木々の実りを最も美しくするために
蕾の数や実の数をそろえ
害虫や病毒から木を守った
実りの季節
自然の回転から歯車をそっと外し
何も移ろわない喜びを沈める



遠からず
過去の意味がやって来る
現在の子孫がやって来る
そんな未来が来ないように
時間の流れを体で塞いでいるのだが
この体こそが時間そのものらしい
何か未来を紛らすものはないか
美しい修辞はどうだ
冷たい母音はどうだ
だが言葉こそが時間そのもので
僕は時間を円周軌道に閉じ込めた



人々よ
口を閉じ目を閉じ耳を閉じ
何も感じるな
そして何も発するな
そうすれば
お前たちの存在を際限のない疲労が包んでいくだろう
疲労の果てに向かって身を投げろ
意識を捨てろ
再び目を開けたとき
壁は相も変わらず垂直で
太陽は相も変わらず眩しい
そのとき訪れる微笑に身を委ねるのだ



「人生」なんて言葉はとっくに死語だから
大局的思考はもう時代遅れだから
そんなことを言いたくなる人生の一局面に
瞬間やその持続で人間の時計の針の音だけを聴く
時計のように正確で慈悲に満ちた通告に
僕は瞬間の応答を返し
寂れていく村の中で
僕は楽しく自分を刻み音を奏でていった



明けない夜は続いて
已まない雨は続いた
僕は光を灯す方法と
傘をさす方法を
非常に巧みに修得したが
その工夫には段々疲労するばかりだった
思い切って闇にも雨にも濡れてみた
体が底まで冷え入るまで濡れてみた
長い時間の経過後
再び僕は
開けない夜とやまない雨へ別の工夫を考え始めた



あなたはあのとき純粋に怒っていた
表情にすら出さずましてや声にすら出さず
理解されようとか理解されまいとかそんなことも考えず
ただ純粋に怒っていた
その黙された怒りについて僕は考えるのです
何の痕跡も何の発展も残さない怒りを僕だけが知っている
この秘密を誰かに明かしてよいものか



そんなに汚れた動機なんていらない
そう思って動機を片っ端から捨てていったら
動機は全て消えてしまった
そんなに美しい結果なんていらない
そう思って結果を片っ端から捨てていったら
結果は全て消えてしまった
動機と結果の間に残されたもの
汚れても美しくもないただ純粋な行為のみ愛する



詩人が死んだと電話で告げられた
誰がかけてきたのか分からないけれど
詩人が死んだとメールで告げられた
誰が送ってきたのか分からないけれど
詩人が死んだと自分に告げられた
自分が誰だか分からないけれど
葬式も要らなければ挽歌も献花も要らない
ただ詩人は死んだ
そしてもう生き返った



天体の動きから外れてしまった人間の動きだけれど
再び体を澄まして天体の回転や移動に釣り合うだけの平衡を取戻す
遠いところで灼熱の物質たちは激しく流動し凍てついた物質たちは宇宙線を反射する
その距離を静かに抱きしめて
その距離から再び更新されるものを
細胞の中心に確かに置いていく



優しさは誰にも見えなくていい
むしろ外見は恐ろしくて気味の悪い方がいい
優しさは誰に与えるものでもない
ただ内側を満たして眼を明るくしてくれるだけのもの
優しさはとても遠いもの
あなたに届かなくても遠い未来にあなたを不意に襲えばいい
僕は無色の振る舞いに判別できない優しさを込める



死でも否定でもなく
生きながら肯定しながら衰えるということは
たましいが扉を開く練習で
開かれた扉から見たことのない内側が
失われた風景のように沢山見えるから
また勢いを取り返した時のために
風景を沢山蓄えて
生命がまた一つ季節を廻った
そしてまた一層内部の明暗を鋭く対比させた



疲れた僕の行先は
背丈が少しだけ低くなった僕自身の皮膚の上
何もかも内側に重く結晶化してしまったので
少しだけ外に出て粉末になって空気の動きに身を任せてみる
僕自身の皮膚の上に粉末として散らばった僕自身
誰かが綺麗に集めて壜にしまい込んでしまうのを
いつも待っているけど果されない



(いろんな人にさようならの花束をこっそりと届けていく。「僕は確かにかつて存在しましたが、あなたの中に存在しましたが、もうこんなに軽くて美しい花束に変ってしまいました。これから僕はあなたとは別の迷路に入ります。沢山の初めましての詰まった迷路です。」真の友人達は花束を送り返してきた)



感情は感情を呼び思考は思考を呼ぶ
そのような精神の連鎖から
全く孤独に産み落とされた
新しく全てから裏切られたのだ
僕は一個の巨大な眼球になって
ぐるぐると絡み付く突端を探したのだが
視界は苦しみで歪んでいき
当り前の野原や家屋にも何も見いだせず
この眼球だけが頼りだと遂に気づく



過去は単なる時間ではなくて
様々な色彩と匂いによって彩られた巨大なオブジェです
大事な過去捨てたい過去
どんな過去とも付き合っていかねばならず
まるで世間の人間模様のようです
ひとつだけ棘だらけの過去があって
捨てようにも危なくて捨てられず
かといって保存するのにも手間がかかる



寒さと明るさが棘のように降ってきた朝
僕たちは飛ぶことしか知らない
夜を突き抜けてきた希望の感覚が
芝生をしっとりと濡らしているけれど
僕たちは深海の静けさしか知らない
木々は根から葉に至るまで幸せに満ちて
町には人々の感情があふれる
だけど僕たちは恒星たちの言葉しか知らない



僕たちの仕事は空に地球を書き写すこと
意味も理由もないけれど
昔から受け継がれてきた伝統のある仕事だ
今日も絵具と絵筆を持って
空に一つ一つ風景を描いていく
やがて夜になり
夜の空には夜の地球を描く
そうして遠い未来に空はもう一つの地球になり
そこに行き交う人と自然の物語が始まる



余りにも多くのものが抜け落ちてしまった僕の体には
作品名: 作家名:Beamte